普通に人生を送っていて、不動産の売買をするという経験は一生に一度あるかないかの大イベントです。
毎日の買い物のように簡単ではなく、複雑な手続きや膨大な手間を経て売り買いされるもの、というのが大勢の人の感覚であると思います。
好景気の真っただ中にある平成29年。日本の不動産事情としては
- 公示地価の全国平均が2年連続で上昇。
- 昨年一年の新設住宅着工件数も2年連続で増加。
(引用:平成29年地価公示・平成28年建築着工統計)
社会経済がにぎやかな今、家を新築したり買換えたりを考える人は当然多いことでしょう。
そこでこの記事では、色々と難しい不動産売買で特に必要な「コスト感覚」について詳しく解説し、これから家を売る人、買う人が得をする、また損をしない知識を紹介していきます。
目次
不動産の値付けは自由。「定価」は存在しない
不動産には定価がありません。不動産を所有している人はそれをいくらで売っても欲しい人がいくらで買っても自由です。
常識的な「コスト感覚」
日常生活を送る中で、誰しも毎日何らかの「買い物」をします。一日三度のお食事や日用雑貨から、衣服、大きい物なら自動車や宝飾品まで。
そして毎日毎回の買い物の中で、「今日は○○がお得に買えてよかった。」、とか「めったに買わないものだから奮発して○○円も出してこれを買ってきた。」と言ったように、コストに対する価値観が皆さんあることでしょう。
この商品がこの値段なら安いとか、これは思っていたより高かったなどという感覚は、品物にはほぼ必ずある、「定価(希望小売価格)」を基準に考えられることが多いと思います。
モノには最初から決められた値段がついていて、それより安ければ得をし、高ければ損をしたとなるわけです。しかし不動産はどうでしょうか?
定価のない不動産
定価をベースとして高い安いの目安が付いている他の商品と違い、不動産には定価というものがありません。
「隣の土地は損してでも買え」という格言通り、どうしても欲しいと思った不動産を近隣の事例と比べて極端に高い価格で買う人も現実にいます。
また六本木ヒルズや東京ミッドタウンのようにブランド化して、高価な地域な中でも特に異彩を放つ不動産もあります。
このように不動産には定価はないけれどその価値を決めるための要素はあるのです。
値付けの要素
不動産以外の商品にも販売価格のもとになるような「要素」があります。それはもちろん不動産にもあって、売る人、買う人の価値観さえ合えばその値段である根拠になり得ます。
例えばその街が持つ
- 便利さ
- 周辺の環境
- 街のイメージ
など、そこで生活をすることによって得られる人それぞれのメリットを思い起こして金額的な価値に置き換えてお金を出すわけです。
その価値が高く設定できるところにたくさんの購入希望者が集まって、不動産の値段は高騰します。
逆に価値が見出しにくい場所には希望者が少ない、または居なくて暴落するようなところもあります。
そして人気のあるところを投機的に押さえて購入希望者に売ってしまおうという動きも、値段が決まる要素に深く関係します。
しかし、このように言い値で決まる不動産ばかりでは、取引はとても秩序があるとは言えません。
自由な取引=無秩序な市場
自由というと聞こえはいいですが、個人の都合でモノの価値が大きく上げ下げするのはよくありません。
特に不動産は一生に一度あるかないかの大きな買い物で、買うときに10年前とか20年後の値段を理解している人は少ないはずです。
自由だからこその弊害
定価のある他の商品と比べ、定価のない不動産は要素に絡む値動きのふり幅が非常に大きい商品です。その不動産が持つ価値に共感する人が多ければ購入希望者は殺到します。
しかしその街のキャパは最初から決まっているので、買いたい人が多いからと言って増産するという訳にはいきません。結果値段が高騰し、買える人が限られてしまいます。
値段をつけるのが自由だからこそ上げ幅も留まるところを知りません。現実、東京都心の商業地はとてもじゃないけど一般庶民では手が出ませんよね。
しかし、いいところだからと言って必ず高く売れるというわけでもありません。人それぞれの事情で、びっくりするような掘り出し物が出ることも不動産の世界ならではです。
個別の事例には大きな差も
そうかと思えばたまたまそこを離れて違うところに引っ越したい人がいたり、経済的な事情でその場所を追われることを余儀なくされた人が所有している不動産の情報をキャッチし、想像をはるかに下回る安値で憧れの不動産をゲットする人もいます。
お隣同士で同時に引っ越しをした人が、倍近く違う値段で似たような不動産を購入しているという不公平な例も現実にあります。
しかし、モノの値段はなんでも青天井ではありませんし、だれも買えない値段になってしまったらもう売り物ではなくなってしまいます。
そしてバブルははじける
世の中の動きにあおられて、人気のある地域の不動産価格はどんどん上がり、しまいには手の届かない値段まで跳ね上がります。
そして誰も買うことができない価格まで達した時に、買い手がつかなくなった不動産は一気に暴落します。
ある程度の年齢の方であれば経験をされた、バブル崩壊の大まかなイメージがこんな感じでしょう。
無秩序な売買が繰り返されることでその価値を超えた価格がついてしまった不動産がたどる悲しい結末です。
このような価格の上げ下げにうまく乗って、安く買い高く売った人はもちろん得ですが、一番高いときに買って、暴落をした後に生活状況が悪化した人は、莫大な借金を背負ったまま住み家を手放す最悪の結果になります。
損が大きいから、真剣に考えるべき
さすがにそれは極論ですが、特に意識をしづらい不動産のコスト感覚をきちんと身につけておくことは、世の中にあおられて無駄な買い物をせずにすむ大事な生活の知恵だと私は思います。
言い方が悪いかもしれませんが、生活は消費のみの世界で生産性がありません。ただ消えていくだけのお金を無駄に消費することは、長寿命化の世の中で人の老後を脅かす大変な火種になります。
不動産を上手に売り買いすることで得られる経済的なメリットは、日ごろの節約とは比べ物になりません。だからこそたくさんの人に、たとえ複雑でも細かく理解して頂きたいのです。
その理解のために必要な、不動産の正当な価格を作る要素についてここから一つづつ出来るだけていねいに説明します。
公示地価は不動産取引の価格指標
まず代表的な要素として不動産取引に関係のない人でも大勢の方がご存知の公示地価があります。
存在は誰でも知ってる公示地価
毎年春ごろに新聞やニュースで発表される公示地価。その存在を知らない人はたぶんいないでしょう。
皆さん公示の時期には新聞やニュースのテロップで、自宅の近くやよく出かける商業地、会社の近所などにある基準地の1㎡あたりの値段を見て驚いたり納得したりしているだろうと思います。
公示地価というものはいったい何のためにある価格なのでしょうか。
実は秩序を失いやすい不動産の世界にある程度の目安を作り、ルールを定めることを市場に促すために考えられた緻密な価値の基準なのです。
公示地価とは
不動産の値付けに関するプロが色んな要素を解析して計算と協議によって導き出された非常に的確な数字が公示地価です。
「地価公示法」という法律をベースにし全国各地で標準地を決め、そこで出た正常な公示価格は都市開発や区画整理などの公共事業にかかる補償額の計算や、民間の不動産売買でも指標とされ、不動産の価格を適正に保つ目的で利用されています。
具体的にどのような要素から、どんなプロが集まって公示地価が出来るのか、そのプロセスをご紹介しましょう。
公示地価ができるまで。
まず、国土交通大臣が「土地鑑定委員」を任命するところから始まります。任命された委員が集まり、「土地鑑定委員会」が結成されます。
土地鑑定委員になるには、不動産の鑑定評価や土地に関する制度について学識経験を持ち
- 禁治産者(破産して復権を得ない者)
- 禁錮以上の刑に処せられたことのない
ことが条件で、国会両議院の了承を得なければなりません。
次にこの「土地鑑定委員会」が、全国津々浦々の標準地を選定します。
標準地は、だいたい同じような使い方(住居・商業地・農地など)をされている地域の中で、その利用状況や環境が通常であると認められた土地とされています。
次に2名以上の不動産鑑定士が標準値を鑑定し、様々な条件の中で要素を勘案して出された評価額を、委員会にかけて吟味します。そして決定された標準値価格が、官報を使いリリースされるわけです。
具体的な要素を考えてみると、見た目は同じ土地でも価値に違いがあります。聞いてみればなるほどと思うことですが、不動産の使い道によって違う価値について考えてみましょう。
不動産の価値は使い道によって全然違う
例えば住宅ばかりがある場所、商業施設が多くある場所、工場地帯。大体の街はこのように、用途によって場所がすみ分けられていて、それぞれに違った価値があります。
住宅地には生産性がない
生活のために使用する不動産は消費のみ、というようなお話を最初の方でしました。
この意味はその不動産を使うことで生産性があるかないかということなのですが、当たり前のことながら住宅地はあくまで生活の場であり、そこでお金は生まれません。
しかし借家や賃貸マンションのように、消費生活を営む人に対しその場所を提供することで収益を生み出すことを生産性として考えることはできます。
使用することで収益を生み出すことができるかそうでないか。生活の場としての不動産にももちろん価値基準がありますが、実際に使うことでお金を生む不動産とはどんな不動産なのでしょうか。
収益を生み出す不動産
工業地や商業地ではモノを作ったり作られたものを販売したりする経済活動が行われています。
同じように農地では農作物が生産され、市場に出荷されます。またオフィス街や金融街ではビジネスマンたちが経済活動を繰り広げ、その場所を使ってビジネスをしています。
収益を生み出す不動産では継続して生産性のある事業が営まれており、不動産は収益を上げるための用に供されていると言えます。
また、直接お金を生む場所ではありませんが、人間が生活するために必要なものを提供して、生活する人の利益になっている不動産もあります。
公共の用に供される不動産
上記の不動産とは異なる用途で、公園や学校、図書館、公民館、火葬場など公共の施設、病院や診療所のように、人間が生活するために必要な施設の中で特に公共性が高いものも、不動産の使い道として別に区分けされます。
この辺りは生産性とは別の世界で、日常生活に必要なものであると言えるでしょう。
全部同じ土地と言えば土地なのですが、使い道によってその価値は全然違うものになり、評価される値段は大きく異なります。
この値段を評価額と言い、公示地価とは別に不動産の価値をはかる基本価格になります。
不動産価格の基本ベース、評価額とはなんぞや?
評価という言葉の通り、評価額とは不動産のプロが鑑定して吟味し、その評価を金額に表したものです。その使われ方によって色んな評価額があります。
評価額とは
先述の公示地価をベースに、近隣の不動産についてそれぞれ1個の物件に対してつけられるのが評価額です。
評価額にはその付けられ方や使い道によって種類があります。
固定資産税評価額
不動産を持っていれば誰でも毎年支払う義務がある固定資産税。しかしその値段が変動する地価の中でそれぞれ購入した価格によって付けられるのはあまりにも不公平です。
そこで地方自治体で標準地の公示価格をベースにして、不動産が接している道路を基準に1㎡あたりの値段(路線価)を設定して大体の評価額を決められています。
厳密には地型や建物の状態などを考えた計算がされ、最終的に一軒づつ評価額は決められていますが、根拠はこの路線価になります。
固定資産税評価額は、正式な評価額の7割とされています。
固定資産税評価額は3年に1回見直される決まりになっていて、この3年の間に極端な地価の変動があって所有者が損をしないようにという配慮からそうなっているそうです。
ちなみに、今何かと問題になっている空き家にも当然固定資産税はかかります。
空き家をお持ちの方は、気をつけてくださいね。
→空き家の固定資産税を増やさないための方法とすぐにできる4つの対策
相続税評価額
亡くなった親族から不動産を相続した時に課税される相続税の計算をするときにも、決められた評価額があります。
同じく公示地価をベースにした計算がされ、路線価を基準にしますが、固定資産税評価額との大きな違いは、借地権割合の評価があることです。
借地権割合はA=90%からG=30%まで10%刻みであり、評価額に掛け算することで借地権の評価を出すことができます。
例えば路線価の表記が150Cとある場合、150,000円×70%で、借地権の評価額は107,000円となります。
相続税評価額は、正式な評価額の8割とされています。
鑑定評価額
先ほどの2つの評価額とは全く異なり、不動産所有者が不動産鑑定士に依頼して出してもらった評価額を、鑑定評価額と言います。
不動産鑑定士ももちろん標準値価格をベースにしますが、鑑定基準の様々な要素を一から組み立てて、その不動産のその時の評価を出すことができます。
近年、区画整理や都市開発における補償の鑑定額に疑問を持った所有者の依頼が増えているそうです。
区画整理組合などが提示する補償額と大きく異なる結果が出るケースもあり、不当に安く収用されてしまうリスクから身を守る方法としてこれから重宝されそうですね。
これらのような正式な評価額だけでなく、実際に動いている不動産のケースから評価を導き出す民間的な方法もあります。
誰でもわかる「取引事例比較法」
不動産鑑定士であればもちろん、一般的に宅建業者などが物件の値付けに広く利用し、最も一般的な方法として定着している「取引事例比較法」。
題名が難しそうですが実際にそんなに難しいものではなくて、だれでも簡単に出来る方法です。
例えばポストに入った売家のチラシや、宅建業者の店頭に掲示している売り物件の中で、自分が売り買いしたい地域のよく似た物件のチラシを集め、値段を比較する方法が取引事例比較法です。
その他に不動産の持っている収益性を計算して値段を決める方法もあります。これはわかりやすく言えば貸家やアパートのような、家賃収入が取れる不動産の値段を考える場合に使われます。
不動産のプロが使う「収益還元法」
評価額をもとに計算してしまうことで、賃料収入が得られる収益物件は儲けが出るのに不当に安い値段が付く場合があります。
評価額をベースにした計算方法に加えて、収益物件の場合は年にいくら儲けが出るからこの値段という考え方もあります。
それが、収益還元法です。
評価額だけではない物件の価値
不動産には消費生活を送るだけのものと、収益を上げるためのものがあります。
例えば賃料等、場所を提供することによって賃貸人から受けることの出来る収入を計算して不動産の価値を金額に表す方法が収益還元法になります。
この収益還元法は、さらに
- 直接還元法
- DCF法
の2つに分かれています。
直接還元法とDCF法
直接還元法とは、この物件を購入して1年間賃貸をすれば何%の利益が生まれるという計算から物件の売値を計算する方法です。
例えばこの物件は年間1,100万円の賃料収入があり、利回り10%として1億円で売却します。というものです
対してDCF法はこの物件を1億円で購入することで10年間で1,000万円のキャッシュフローが生まれます。というようなシミュレーションを伴った計算方法です。
一見緻密ではありますが、将来の経済変動などは予想することができないので、よほど安定した情勢でない限り計算通りに行くとは限りません。
不動産の価値を決める要素。たくさん紹介しましたがまだまだあります。
先ほど出てきた標準地を基準にして、街を歩けば色んな条件の違いが同じ場所にある不動産にもあります。そんな不動産が個別に持っている要素について紹介します。
価値を上げ下げするその他多数の要素たち
例えば接道している道路が極端に狭かったり、昔からの不動産でよくあるケースですが、私道を持ち出しあっていて、建物を建て替えるときにさらに土地を後退させて現行の基準に道路幅を合わせなければならない。
また、所有地に接道している入口の幅が基準に合わないため、古い建物を解体したら次に新しい建物を建築することができないなど、極端に使い勝手が悪い不動産は価値が落ちてしまいます。
広い道路にきちんと面したちょうど使い勝手のいい面積の真四角の土地。いわゆる「べっぴんさん」の土地を最高にして、形が変わったり一つの土地の面積の大小によっても価値は大きく変わります。
いくら真四角でも、住宅地のど真ん中にある千坪一筆の宅地なんて、普通のお客さんでは買えませんから当然評価が下がります。
このように不動産の値付けには、ただ路線価の掛け算だけではわからない複雑な条件の絡みがあるのです。
しかしこれらはそんなに難しいことではなくて、例えば自分がその不動産を買うと考えて、べっぴんさんのと比べるとこういうところが不便とか、こんなにはいらない。逆にこれだけでは足りないとかこんな権利がついていたら得だ、損だと言った単純なことの組み合わせなのです。
さいごに
不動産は人生で一番高い買い物です。一番高いときと、一番安いときではヘタをすると何倍も差があることもあります。特に好景気にあおられて購入者が多い時期は相場が上がり、高額になります。
現金で購入するとなれば別ですが、おおかたの人は不動産を購入するときにローンを使います。今のローン月額が支払えるから、という理由だけで購入するというのはあまりに安直で、損な考え方です。
場合によっては経済的に大きな変動があって、手放さなければならなくなることもありますし、そのタイミングで担保価値が暴落していれば家は失う、借金はほぼ残るということも可能性としてあります。
正しい相場の知識、自身の身の丈に合った予算組み。一見難しい不動産取引でもこれを考えることはそんなに難しいことではありませんし、とても大事なことです。
本項が皆さんの知識となって、好景気にあおられ正しい選択眼を見失うことのないよう上手に不動産を売り買いすることができれば光栄です。