法人の不動産売却では、
- 法人で不動産売却をするけど必要書類がわからない
- 法人で不動産売却をすると税金は安くなるの?
- 個人と法人ではどっちがメリットある?
など、法人で不動産売却を考えている人は上記のような悩みをお持ちではないでしょうか?
法人で行う不動産売却にはさまざまなメリットがあることも事実ですが、場合によっては個人名義で行った方がお得になることがあります。
どのような点に違いがあるのかを明確にし、よりメリットの多い不動産売却に活用するのがおすすめなのです。
そこでこの記事では、法人で不動産売却する際に覚えておきたい税金、必要書類、また個人と法人でどちらがいいのかなど、法人の不動産売却に関することを詳しく解説します。
法人で不動産売却を考えていたり、そもそも個人で不動産を購入するか法人で購入するか悩んでいる人の参考になれば幸いです。
目次
法人の不動産売却の方が良いと言われる理由は「税金や税率の違い」
不動産は法人で契約して売却したほうがいい!なんて聞いたことはないでしょうか?
ほとんどのサイトでは法人で不動産売却することが推奨していますが、実際にはすべての人に当てはまるわけではないんです。
不動産売却を法人で行うケースと個人で行うケースでは、先ほど触れたような考え方の違いだけでなく、税金や税率も異なります。
不動産売却を法人で行うか、個人で行うかを検討している方は売却する不動産にどの税率が適用されるかを確認しておきましょう。
不動産売却を法人が行う際に適用される税金の考え方
不動産売却を行う際は法人名義で行っても個人名義で行っても、所得税がかかるという点に違いはありません。
ただし、適用される税金の考え方には次のような違いがあります。
税金の考え方 | |
---|---|
法人に適用される税金の考え方 | 損益通算した上で、利益の額によって定められた法人税率を適用 |
個人に適用される税金考え方 | 給与所得や不動産所得、事業所得などの所得ごとに課税される分離課税を適用 |
法人と個人の不動産売却に適用される税率の違い
法人に適用される税率と個人に適当される税率には、次のような違いがあります。
税率 | |
---|---|
法人に適用される税率 | 資本金1億円以下の法人:課税所得が年800万円以下⇒15%、課税所得が800万円を超える部分⇒23.2% |
個人に適用される税率 |
所有期間が5年以下の物件を売却した短期譲渡所得→39.63%の税率 所有期間が5年超の物件を売却した長期譲渡所得→20.315%の税率 |
このように法人の場合はもっとも高い税率が23.2%。
個人の場合は39.63%となるためどの税率を選ぶかが譲渡所得に大きく影響することになります。
税金の考え方だけでなく、不動産の特徴によって適用される税率が異なることも事前に把握しておきましょう。
個人の税金に関しては下記の記事で詳しく解説しているので、気になる方はチェックしてみてください。
不動産売却を法人ですることで生まれる3つのメリット
法人で行う不動産売却は個人名義の場合と比較すると、適用される税金の考え方と税率に大きな違いがあるのはわかりましたかね?
ただ、それ以外にも次のようなメリットがあるために「不動産の売却は法人ですべき」と言われているのです。
- 事業利益の大きさによっては節税効果が高まる
- 法人のほうが経費を幅広く計上できる
- 社会的信用が得られやすい
それぞれのメリットを具体的に解説していきますね!
事業利益の大きさによっては節税効果が高まる
法人名義で不動産売却をした際の1つ目のメリットが、事業利益の大きさによっては節税効果が高まることです。
現在の日本の税制は、個人の所得には分離課税が適用されていますが、法人の場合には損益通算した上で、利益の額によって定められた法人税率を適用するという形式が取られています。
法人も個人も「売却代金-取得費=譲渡所得」が手元に残るものの、法人だけが他の事業での損益分を差し引いた譲渡所得から税額を定めることができます。
簡単にいえばメイン事業以外で出た利益も相殺することができるわけです。
法人のほうが経費を幅広く計上できる
不動産売却を法人が行ったケースだけにあるメリットの2つ目が、経費を幅広く計上できることです。
先ほど触れたように法人であれば、いくつかの事業のなかでマイナス収益になっているものがあれば、利益を抑えることができ、納めるべき税金を安くすることに繋がります。
また、税額を導き出す際の事業利益は、経費によってマイナスにすることもできるのです。
個人の場合は、プライベートな支払いは経費にならないと考えられていますが、法人であれば、プライベートな支払いであっても設備投資や役員報酬として、利益を小さく見せるために活用できます。
ただし、あくまでも経費に関しては専門家に相談した方がいいので、経費にできるできないは必ず税理士に相談するようにしましょう。
社会的信用が得られやすい
そして、3つ目のメリットが社会的信用が得られやすいというものです。
不動産の売却をする際に、売り主と買い主の間には仲介業者が入るのが一般的ですが、
法人を相手にする場合と個人を相手にする場合では、仲介業者の信用度が異なると言われています。
大手企業のなかには、法人でなければ取引を行わないと決めている業者もあるほどです。
また、宅地宅建取引主任者などの資格をもっているなどの、買い主に信頼される準備がある場合には仲介業者を利用しないという選択も可能になります。
法人というステータスがあることで信用を得ながら、「売買価格×3%+6万円+消費税」の仲介手数料も削減できるのです。
不動産売却における仲介手数料に関しては下記の記事で詳しく解説しております。
法人の不動産売却が損になる2つのケース
法人名義での不動産売却には税率を抑えられるという大きなメリットがありますが、次の2つのケースでは個人名義で売却した方が利益が大きくなります。
- 個人で居住用財産の不動産を売却する場合
- 所有期間が5年超の物件を売却した長期譲渡所得を得る場合
法人として売却すべきか、個人として売却すべきかを検討しているかたは次の2つのケースを、個人名義で売却したほうが利益が大きくなるケースとして把握しておくことをおすすめします。
個人で居住用財産の不動産を売却する場合
個人で居住用財産の売却する場合は、次の条件を満たしていれば、国税庁が設けている「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」を利用することができます。
- 自分が住んでいる家屋か家屋とともにその敷地や借地権を売却すること
- 以前に住んでいた家屋や敷地等の場合は住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 家屋を取り壊したケースでは譲渡契約までの期間でに住居以外の目的に使ってないこと
- 売買契約を行う双方がが親子や夫婦など特別な関係でないこと
自分が住んでいる家屋を売るという条件があるため、個人だけが利用できる制度なのです。
特別控除の特例では、譲渡所得から3,000万円という大きな金額を差し引いた所得に税率がかけられるため手元に残るお金に大きな違いが生まれます。
所有期間が5年超の物件を売却した長期譲渡所得を得る場合
また、2つ目の所有期間が5年超の物件を売却した長期譲渡所得を得る場合は、適用される税率が20.315%となり、法人で適用される税率よりも小さくなります。
もちろん、法人の事業利益によってその差額は変動します。
しかし、仮に5,000万円の不動産を売却した譲渡利益だけだった場合には600万円もの違いが生まれるため、
所有期間が5年超の物件を売却した長期譲渡所得を得る場合も法人の名義で売却することが損になるケースとなるわけです。
法人の方が不動産売却に向いているのは確かですが、上記のケースでは個人の方が良い場合もあるのでしっかりと確認するようにしましょう。
法人と個人はどっちがお得?実際に不動産売却をシミュレーション
ここからは法人で行う不動産売却がお得になるケースを具体的にシミュレーションしていきます。
不動産売却には仲介手数料や印紙税、登記費用などの諸費用が必要となりますが、法人の場合も個人の場合も違いがないため今回は割愛します。
売却価額が5,000万円の不動産を法人名義で手放した場合のシミュレーションは次の通りです。
- 税額→5,000万円×33.59%(法人に適用される税率)=1,680万円
- 課税後の金額→5,000万円-1,680万円=3,320万円
また、個人名義で不動産売却をした場合のシミュレーションは、次の2つのケースに分けられます。
①所有期間が5年以下の物件を売却した短期譲渡所得を得たケース
- 税額→5,000万円×39.63%(個人の短期譲渡所得に適用される税率)=1,982万円
- 課税後の金額→5,000万円-1,680万円=3,018万円
②所有期間が5年以上の物件を売却した長期譲渡所得を得たケース
- 税額→5,000万円×20.315%(個人の長期譲渡所得に適用される税率)=1,015万円
- 課税後の金額→5,000万円-1,015万円=3,985万円
このように5,000万円の不動産を売却するケースでは、法人の場合は3,320万円、個人の場合は所有期間に応じた3,018万円か3,985万円の金額が手元に残ることになります。
ですので、やはり所有期間が5年以内であれば法人の方がお得だということがわかります。
それに、法人は不動産売却によって大きな利益が生まれたとしても、他の事業の損失や経費を計上するによって利益を小さく見せることが可能です。
なので、投資を目的とした不動産を5年未満の短期間で売却するケースでは、個人名義で売却するよりも数百万円多く手元に残すことができますよ。
他の事業も黒字で利益が大きくなりそうであれば売却時期を変えるなどの対応をするのもおすすめです。
不動産売却を法人が行う際に必要な書類や税金は?
不動産売却を法人でする場合は個人で売却する場合とで必要書類が変わってきます。
しかし、その前に基本知識として、不動産売買を法人が行う際に必要な書類や税金を理解しておくことをおすすめします。
個人で必要とされる書類や税金とは、どのような違いがあるのでしょうか?
不動産売却を法人が行う際に必要な書類
不動産売却を法人が行う際に必要な書類は次の通りです。
法人が用意する書類 | 個人が不動産売却する場合との違い |
---|---|
登記済み権利証または登記識別情報 | なし |
会社の印鑑証明書 | 個人の場合は印鑑証明書 |
3ヶ月以内の会社謄本 | 個人の場合は住民票 |
実印 | なし |
固定資産税納付書 | なし |
個人と比較しても法人の場合は書類が多いことがわかりますよね。
会社謄本などは3ヶ月以内という期限があるので注意が必要です。
すべて揃えるのは面倒ですが、これらの書類がないと不動産売却をすることはできないので、予め不動産売却が決まる前に準備しておくことをおすすめします。
法人だけができる不動産売却時の節税対策
所有期間が5年超の物件を売却した長期譲渡所得を得る場合などは、個人で不動産売却をしてしまった方が多くの利益を手にすることができます。
ただし、法人でなければできない節税対策があることも事実です。
個人名義での不動産売却か法人名義での不動産売却かを検討したいという方は、法人だけができる節税対策があるということも知っておきましょう。
主な節税対策は下記の3つです。
- 新規物件を購入して減価償却を利用する
- 不動産売却で出た課税所得を分散させる
- 特別償却できる設備投資を行う
新規物件を購入して減価償却を利用する
中古住宅の購入もいいですが、新築物件を購入して減価償却を上手に利用することで節税対策をすることができます。
減価償却とは、会計上の手続きであり購入した年に経費として計上するのではなく、分割して1年ずつ計上することを指します。
減価償却費はあらかじめ国によって定められており、不動産の場合は耐用年数が短いと考えられている木造や軽量鉄骨の物件のほうが減価償却費を高く計上することができるのです。
新たな不動産投資を行い、減価償却を利用しながら事業利益を小さく見せることで、節税効果を高められるのが法人ならではの節税対策です。
不動産売却で出た課税所得を分散させる
この節税対策は、事業を家族経営で行い、親族が従業員として務めている場合などに活用されています。
不動産所得を役員への退職金として利用することで、課税額を減らすことが主な目的ですが、20年以上の勤務実績があれば退職金に課せられる税率も優遇されます。
2000万円の退職金を得た場合でも、20年以上の勤務実績があれば「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」の金額が控除されます。
特別償却できる設備投資を行う
通常の減価償却費とは別に経費の追加して計上できる制度を利用した節税対策が、3つ目の「特別償却できる設備投資を行う」です。
特別償却とはその名の通り、特別に許可された減価償却以外の予算を指します。
仮に1,000万円のソフトウェアを購入した場合は、毎年の減価償却に追加して30%の特別償却が認められています。
1,000万円の事業の効率を高める設備を購入したというケースであれば、500万円を費用として計上することができるわけです。
不動産売却で大きな利益がでそうであれば、このように特別償却できる設備に投資するのもおすすめです!
法人として不動産売却をする際の2つの注意点
法人としての不動産売却と個人として不動産売却には、会社の経営と不動産の状況を知ることが必要不可欠です。
ただ、それ以外にも次のような注意点があるので確認しておきましょう
- 法人を設けるのにも費用がかかる
- 利益がなくても法人住民税の均等割額を支払わなければならない
法人を設立するにも費用がかかる
1つの企業として不動産売却をすることで、幅広く経費として計上できる、社会的信用を高められるといったメリットが生まれることは事実ですが、その分の費用が必要となります。
最近では個人での起業が簡単になったと言われていますが、法人を設けるとなると会社を設立するためには、法的ルールに必要な各種手続きが必要となり、手続きにかかる諸費用もかかるようになります。
株式会社や合資会社、合同会社などの種類によって必要な手続きや費用は異なりますが、必要な手続きである定款作成費用と設立登記費用を合計すると、最低でも25万円ほどは必要になります。
ですので、法人を設立するにも費用がかかるということは覚えておきましょう。
利益がなくても法人住民税の均等割額を支払わなければならない
また、法人を設けた場合は、利益がなくても法人住民税の均等割額を支払わなければいけません。
個人は所得がなければ、税金を支払う必要がありません。しかし、法人の場合は、利益がなくても法人住民税の均等割額を支払わなければならないのです。
地域によって異なりますが、東京都23区内の資本金1,000万円以下かつ従業員50人以下の会社は、毎年7万円を支払うことが義務付けられています。
うまく不動産売買ができればいいですが、失敗してしまうと余計な費用だけが掛かるようになるのは知っておきましょう。
「不動産売却は法人ですべき」はケース・バイ・ケース
不動産の売却を法人ことでたくさんのメリットが生まれることは事実ですが、ケース・バイ・ケースであることが大前提です。
同じ物件であっても、その物件がどのような用途で建てられた物件か、またどのくらいの期間保有している物件かによって個人名義で売却したほうが得になることもあります。
そして、法人として不動産売却を行うべきか、個人として不動産売買を行うべきかを検討する前に、状況によってメリットになるケースとデメリットになるケースがあることを把握しておくことが大切です。
このような知識を持ち合わせているだけで、不動産売却を法人で行うことのメリットを最大限に活かすことができますよ!
参考にしてみてください。