家やマンションを購入した時点では、十分な支払い計画を立てられ余裕でローンを返済できるとわかった上で購入に移るケースが大半です。

しかし、それは安定した収入が得られるという前提がある上で考えられるパターンになります。

住宅ローンを組んだ方の中には、失業や事業の失敗をはじめとする様々な事情が原因となり、ローンが思うように支払えなくなってしまったという方も少なくありません

例えば月数万円のローンを支払うのが困難になったというような場合は、そのローンの原因となっている不動産を売却したいと考える方が多いです。

しかし、そのローンの状況によっては売却することで売り手が不利になってしまうようなことも考えられるのです。

それでは、ローンの支払いが難しくなった不動産を上手に売却するにはどのようなことをすればよいのでしょうか。

この記事では、ローンを滞納した際に発生することや競売、任意売却などについて紹介させていただきます。

売却前にまずは不動産の価値を知るべき理由

不動産の売却を考える前に、まずはその対象となる家やマンションの現在のローン状況、資産価値などを把握する必要があります。

つまり、売却活動を行う前に、

  • 住宅ローンの残りの確認
  • 不動産がいくらで売却できるかの確認

をしなければなりません。

住宅ローンの残りの確認

例えば2000万円で購入した不動産のであったとしても、月々のローンの返済によって残りの金額が1000万円になっているケースもあれば500万円になっているケースもあります。

  • 何年ローンを支払い続けてきたのか
  • 1回の返済額はいくらなのか

によってそのローンの残りは大きく変わってきます。

住宅ローンを組んですぐにローンが支払えないような状況に陥った場合は、売却を考えるのもよいでしょう。

新築を購入したのであればまだ高く売れる可能性も高いですし、早ければ早いほど資産価値が高いからです。

しかし、残りが100万円程度であれば、なんとかそのお金を集めて支払ってしまうことでその後の負担はなくなります。

このように、不動産を売却するのであれば、まずは住宅ローンの残債の確認が重要になってくるのです。

不動産がいくらで売却できるかの確認

次にすることは、実際に不動産を売却するとなった場合にいくらくらいで売却可能なのかを確かめることです。

2000万円で購入した物件が、現在は2500万円で売れることもあるかもしれませんが、一般的には2000万円よりも下がることが多いです。

例えば1500万円で売れるかもしれないとなった場合、ローンの残りが1300万円であればスムーズに売却することができるでしょう。

しかしローンがまだ1800万円残っているとなったら、300万円は現金を集めて支払わなければならないため、場合によっては難しいです。

月々のローンも支払えないが、売却が成功したとしてもローンが残ってしまう場合は一般の売却方法では売ることができないため、こちらも事前に確かめておく必要があります。

家やマンションの売却価格とローンの関係

ローンが残っている家やマンションを売却するにあたって考えなければならないのは、売却時にそのローンを完済できるかどうかです。

具体的には、

  • アンダーローン
  • オーバーローン
  • 預貯金でまかなう

の3つのパターンに分けられます。

アンダーローンはローンの残債を全て支払うことができる状態

アンダーローンとは、不動産を売却することでローンの残債を全て支払うことができる状態のことを言います。

例えば、ローンの残りが500万円なのに対して、売却価格が1000万円の場合は、売却することでローンの残りをカバーすることができます。

そのため、アンダーローンの場合はすんなりと売却することが可能です。

オーバーローンは残債を全額返済することができないケース

オーバーローンとは、アンダーローンの逆で売却したとしてもローンの残債を全額返済することができないケースのことを指します。

例えば、ローンがまだ1500万円残っているのに売却価格が1000万円にしかならない場合などがこれに当たります。

1000万円で売却できてもまだ500万円のローンが残ることになるため、一般的にはローンを組んだ金融機関の承諾なしにその不動産の売却は認められません。

住宅ローンを組む際には、銀行などの金融機関が対象の不動産に抵当権を設定しますが、その抵当権がなくならない限り売却は不可能なのです。

預貯金でまかなう

上記のようにオーバーローンの状態だとしても、ローンの残りの金額を預貯金で何とかまかなうことができるのであれば、アンダーローン同様に売却をすることが可能です。

先ほどの例で行くと、500万円を貯金を崩して支払う、または両親に援助してもらうなどすることで支払うことができるのであれば、抵当権も外れて普通に売却することができます。

オーバーローンになった場合の対処法

上記をまとめると、

  • アンダーローン
  • 預貯金でまかなう

の2つのケースであれば一般的な売却活動を通して不動産を売ることが可能です。

しかし、オーバーローンの場合は実質不動産を売ることができません

さらに月々のローンの支払いもできないとなった場合は、どうすればよいのでしょうか。

ローンが払えないと起こること

それでは、ローンの未払いが続いたらどのようなことが発生するのかを見ていきましょう。

未払いの期間 発生すること
3ヵ月 督促状が届けられる
6ヵ月 利益喪失通知が届けられる
7ヵ月 代位弁済通知が届けられる
8ヵ月 差押通知書が届けられる
9ヵ月 競売開始決定通知書が届けられる
10ヵ月 執行官による現況調査が行われる
14ヵ月 競売の期間入札通知書が届けられる
落札2ヵ月後 強制退去させられる

催促状への対処法

ローンの滞納を1度行うと、金融機関から催促の電話があり、通知が届けられることになります。

滞納が2回続くと、事情を説明するための来店依頼状というものが届き、それに応じて金融機関へ足を運ばなければなりません。

滞納が続くと、もちろん状況はさらに悪化するため、当然まずは債権者に連絡を入れて事情を正直に話す必要があります。

例えば、リストラや減給によってローンが払えない、長期の入院によって支払いが遅れたなどの様々な事情がありますが、まずは現状を話しましょう。

その上で、今後はどのようにローンを支払っていくかを話し合います。

具体的には

  • 現在の収入に応じて月々いくらなら返済が可能なのか
  • 今後は収入の増える見通しがあるのか

などを話すことで何とかなるケースもあります。

利益喪失通知への対処法

期限の喪失通知とは、金融機関がこれ以上分割での支払いを待てないという通知のことで、通常はローンを半年滞納した時点で債権者から債務者に送られてくる書類です。

一般的なローンのように、通常は一括で支払うべき金額を、金利を付けることで債務を分割して支払い可能にする約束のことを期限の利益と呼びます。

要するに、債務者は少しずつお金を返すことを前提として金融機関にお金を借りるわけですが、その約束が守られない以上、

債務者は期限の利益を喪失することになり、その時点での一括返済を求められるということです。

当たり前のことですが、毎月の少額を返済できないご家庭は一括で残金を支払う能力がないケースが大半なため、保証会社が債務者に代わって金融機関にローンを一括返済します。

そして、金融機関に変わって保証会社が債務者にローンの返済を要求してくるようになるのです。

一旦期限の利益喪失が届いたら、一括でそのローンを返済する以外に道はありませんが、現金がない以上は担保となる不動産を売却する以外に選択肢がないのが現状です。

上述したアンダーローンの場合は売却が可能ですが、オーバーローンの場合はこの時点で競売か任意売却によって不動産を売ることを選択得ざるを得ません。

この両者については、後程詳しく紹介させていただきます。

代位弁済通知とは一括返済した保証会社から送られてくる書類

債務者の代わりに金融機関にローンを一括返済した保証会社から送られてくる書類が代位弁済通知です。

内容的には、利益喪失通知とほぼ同じですが、その支払い先が金融機関から保証会社に代わり、支払えない場合は保証会社が競売の手続きを開始します。

差押通知書とは差し押さえ時に裁判所から届く書類

保証会社が裁判所に競売の申し立てを行う上で、その担保となっている不動産が差し押さえられ、それに伴って裁判所から差押通知書が届きます。

裁判所に差し押さえられた物件は債権者なしでは売却できなくなりますが、この差し押さえを解除するには

  • ローンの残りを一括返済する
  • 任意売却をする

の2択になります。

このうちの一括返済は実質不可能であるケースが多いため、通常は任意売却を選択することになります。

任意売却とは、オーバーローンにもかかわらず、債権者に許可を得た上で不動産を売却して抵当権を抹消してもらうという売却方法のことです。

任意売却をしなければ競売の方向に話が進むため、できるだけ任意売却できるように進めていく必要があります。

競売開始決定通知書とは不動産の競売に対する承諾をした書類

裁判所が「保証会社によって申し立てられた不動産の競売に対する承諾をした」ということを示す書類が競売開始決定通知書です。

中には、このまま競売にかけられるのを待つという方もいますが、一般的には任意売却の方がメリットが大きいため、早めに対処する必要があります。

現況調査とは裁判所権限の自宅を調査

その後は、執行官による現況調査が行われるわけですが、これは強制的な調査になるため、例え本人がそれを拒んでも裁判所権限で自宅を調査されます。

現況調査の主な目的は、競売に向けての価格の基準を定めるためになり、競売がより現実のものとなります。

もちろんこの時点ではまだ任意売却を選択することもできるため、債権者と話し合って任意売却を早く成功させる必要があります。

競売の期間入札通知書とは不動産の具体的な入札期間などが記載された書類

こちらも裁判所から届けられる書類で、対象となる不動産の具体的な入札期間などが記載された書類になります。

一般的にはその期間内で最も高い価格を付けた方に不動産売却が行われますが、高いといっても当然任意売却で売る価格と比べるとかなり安いことが多いです。

落札されて入金が確認できたら、その不動産は落札者のものということになるため、ご家族の状況などは関係なく強制退去させられてしまうのです。

しかし、その入金が確認できるまでは、落札者の同意が得られれば同時に任意売却を続けることも可能です。

全額返済できない場合の対策方法

上述したように、ローンの返済を滞納して競売にかけられてしまったら、最終的には非常に悲惨な結末を迎えることになります。

ローンが支払えない場合は、先ほど何度も登場した

  • 任意売却
  • 競売

のどちらかの方法で不動産を売却することになります。

それでは、それぞれにはどのような違いがあるのでしょうか。

任意売却と競売の違い

  任意売却 競売
売却価格 市場価格に近い額で売れる 市場価格よりかなり安くなる
プライバシー 周りに知られずに売却可能 幅広く公開される
売却期間 早ければ2ヶ月ほど 申し立て後半年~
残債の支払い 債権者と相談することができる 債権者から一括での請求がある
引っ越し時期 引っ越しする時期を交渉できる 強制執行になるケースが多い
そのまま住み続ける 場合によっては可能 基本的には不可能

これを見るだけでもわかるように、基本的には競売よりも任意売却の方が望ましい解決方法だと言えます。

しかし、場合によっては任意売却よりも競売の方が良いと考える方も存在します。

それでは、それぞれの具体的なメリットやデメリットを見ていきましょう。

任意売却のメリット・デメリット

上の表のように、任意売却が競売と比べて高く売却できたり、場合によってはそのまま住み続けることができる可能性があるということは明白です。

そのため任意売却にはメリットしかないような印象も受けますが、実はデメリットも存在するため、ここでは任意売却の特徴を紹介していきます。

メリット デメリット

・売却する人を指定することができる
・売却後の残債の支払い方法が考慮されやすい
・引っ越し代などの必要経費をもらえる可能性がある
・引っ越し先の面倒を見てもらえる

・売却手続きを自分で行う必要がある
・債権者と話し合わなければならない
・悪徳業者を利用する可能性がある
・必ず売れるとは限らない

確かに高く売れるというのも大きなメリットですが、任意売却の最大のメリットと言えるのが、購入者を決めることができるという点です。

例えば、お金に余裕のある親族や知人に購入してもらうことができれば、そのままそこに住み続けられる可能性が高まりますし、返済にもある程度の融通がきくかもしれません。

ただし、任意売却を行うためには専門の業者を利用することになるのですが、その利用する業者によっては借金がさらに大きくなってしまう可能性もあります。

そのため、できればきちんとした機関に紹介してもらった業者を利用することをおすすめいたします。

また、当然必ず売れるとは限らないため、その場合は競売となってしまいます。

競売のメリット・デメリット

一方で、競売にはどのような特徴があるのでしょうか。

主なメリットとデメリットはこちらです。

メリット デメリット

・任意売却よりも長く今の家に住める
・売却活動をする必要がない
・自己破産をするつもりなら競売でも問題ない

・購入者が誰になるかわからない
・個人情報がすべて公表される
・競売後の取り立てが厳しくなる可能性が高い

購入者を選ぶことができないため、当然売却後にその家に住める可能性はかなり低くなりますし、残債の返済方法を話し合うことができないため取り立てが厳格になる可能性が高いです。

しかし、売却に関する様々な手続きを債務者が何かしなければならないということがないため、売却活動をせずとも不動産を売ることが可能です。

また、自己破産をするつもりなのであれば、特に残債などを気にする必要がありませんし、それであれば任意売却よりも少し長く今の家に住める競売の方がメリットが大きいとも考えられます。

任意売却は早ければ2ヶ月くらいで買い手がつくため、その購入者と話し合って家を明け渡す必要があります。

しかし、競売の場合は数か月長く住み続けることができるため、「行く当てがなく少しでも長く今の家にいたい」という場合は競売を選択するのも方法の1つです。

ただし、連帯保証人がいる場合は自己破産をしたとしても残債は連帯保証人に移るため、予めその旨を確認したうえで自己破産する必要があります

任意売却と競売の共通点

どちらかと言うと任意売却のほうが良いという方がほとんどですが、実は任意売却であっても競売であっても、共通して発生する不利益が存在します。

それは、

  • 売却後であっても残債を返済する義務は残る
  • ブラックリストに登録される

の2点です。

売却後であっても残債を返済する義務は残る

任意売却や競売という話になるということは、オーバーローンで売却をしても借金が残る状態であるということでもあります。

当然、不動産が無事に売却できたとしてもローンを完済することはできないため、売却後に残った残債はきちんと支払わなければなりません。

これはどちらのケースも同じことが当てはまりますが、上述した通り、競売よりも任意売却の方が残債の支払いに寛大なケースが多いです。

そのため、競売になると債務者が夜逃げをしてローンの残りを回収できないというケースも珍しくありません。

任意売却であれば回収できる可能性が高まるため、債権者の中にも任意売却をすすめる方は少なくありません。

ただし、先ほども書いたように自己破産をする予定なのであれば、売却活動をする必要のない競売のほうが良いでしょう。

ブラックリストに登録される

競売はもちろん、任意売却を行ったとしてもブラックリストに載り、その後の生活に影響が出てくる可能性があります。

任意売却であれば問題ないと考える方も多いですが、任意売却という話になる時点で既にローンを滞納しているということになるため、ブラックリストへの登録は致し方がありません。

実際に、この住宅ローンを滞納している時点でブラックリストに名前が載ることになります。

まとめ:任意売却の方がおすすめ

家やマンションを購入する時点では、十分な見通しを持って住宅ローンを組むという方がほとんどですが、中にはそれが計画的にいかないケースも存在します。

月々のローンを支払うことができないとなった場合は、最終的に家を差し押さえられて強制的に退去しなければならなくなるため、早めに手を打っておく必要があります。

具体的には金融機関に事情を話してローンを見直してもらったり、できるだけ早い段階で任意売却を行うといったものが挙げられます。

もちろん売却後に残債がある場合はそれもきっちりと支払う必要がありますが、少なくとも売却前よりは月々の負担が減るはずです

ただし、競売で落札された場合は今まで以上に取り立てがきつくなる可能性が高いため、やはり自己破産をしないのであれば任意売却の方が良いでしょう。