解体工事とは、文字どおり建物などを解体する工事のことをいいます。
寺社などの歴史的な建造物でもない限り、どんな建物にもいずれは解体されるときがやってきます。
ただし、一口に「建物の解体」といっても、一般的な居住用の戸建て住宅だけではなく、ビル、マンションや倉庫など、解体工事の対象となる建物の種類や構造はさまざまです。
ここでは解体工事の種類やその特徴、解体工事の流れや注意点などを解説します。
解体工事の種類
まず解体工事の種類を見ておきましょう。
ここでは、居住用の戸建て住宅、マンション等、内装の解体工事について説明します。
居住用の戸建て住宅
居住用の戸建て住宅にも、建て方の種類がいくつかあります。
外観が同じように見えても、内部の構造によって解体工事の金額が異なることがあります。
見積もりを依頼する際には、事前に建物の構造
- 木造
- 鉄骨造
- 鉄筋コンクリート造
などを把握しておいた方がよいでしょう。
木造建物
総務省統計局の住宅・土地統計調査によれば、平成25年時点で日本国内にある戸建て住宅のうち、実に92%が木造です。
また、木造の中にもさらに
- 木造軸組工法(日本に古くからある建て方で「在来工法」ともいいます)
- 木造枠組壁工法(こちらは「2×4工法」の呼び方がおなじみかもしれません)
など、複数の建築方法があります。
中には「混構造」といって、1階が鉄筋コンクリート、2階が木造という建物もあります。
一般には、木造軸組工法よりも木造壁枠組工法の方が頑丈で、解体費用も高くなりがちなのが特徴です。
鉄骨造建物
戸建て住宅のうちに占める割合は数%ですが、大手住宅メーカーでは「軽量鉄骨造の建物が主力」という会社もいくつかあります。
鉄筋コンクリート造建物
一般の戸建て住宅としては少ないですが、建物の主要構造部(柱や梁)には大量の鉄筋が使われているため壊しにくく、木造や鉄骨造よりも鉄筋コンクリート造の方が解体費用は高くなります。
難しい「長屋」の解体
都市部では昔から狭い土地を有効に使うため「長屋」といって建物の壁を隣の家と接して建てる方法があります。
昔に比べて随分と数は減ってきましたが、総務省統計局の住宅・土地統計調査によれば、平成25年時点で、日本国内に長屋は約129万戸あり全住宅の2.5%を占めています。
長屋を解体するには、隣の建物とくっついている壁の切り離しが必要となるため、作業は困難です。
特に、古くからある木造長屋の場合、解体工事の振動によって隣の建物に損傷が生じることもあります。
また、無事に解体が終わった後には隣の家の壁を補修する必要がありますが、通常、この費用は解体する側の負担となります。
このように、難しい作業を伴い、さらに隣の壁の養生費用も必要となるため、総じて長屋の解体工事は工事代金が高くなります。
そのため、解体工事業者を選定するときには、このような難しい作業の経験を積んでいるか、万一の場合に補償できるだけの資力があるか、工事保険に加入している事業者であるか等もポイントとなります。
マンション等の解体
マンションの解体等は、ほとんどが鉄骨造または鉄筋コンクリート造であるうえ、建物も大規模となるため解体工の工事費も高額となります。
また、工事代金が500万円を超える解体工事を引き受ける場合には、建設業の許可が必要となります。
建物を壊す解体工事に建設業許可が必要というのも不思議な話ですが、建設業の許可は現在29業種あり、その一つに「解体工事業」という建設業許可があるのです。
もし、見積金額が500万円を超えるような解体工事の場合には、依頼する解体工事業者が建設業許可をもっているか確認しておく必要があります。
ただし、解体工事業の許可は平成28年に新設されたばかりですので、平成31年5月31日までは「とび・土工工事業の許可があれば解体工事を受注できる」という経過措置があります。
内装の解体
建物を丸ごと壊してしまうだけが解体工事ではありません。
たとえば、リフォームするために既存の内装を解体する場合や、テナントビルの一室を改装するときに既存の内装を撤去するのも解体工事です。
テナントビルの内装を解体する場合には、必ずビルオーナーの同意が必要です。
また、どの範囲まで解体できるか判断できない場合もあるので、解体工事の見積もり時には、ビルオーナーまたは管理会社に立会いを依頼しておくことをおすすめします。
解体工事の流れ
それでは、実際に解体工事を思い立ってから、解体工事が完了するまでの大まかな流れを確認しておきましょう。
解体工事業者にすべてお任せで解体工事が進むわけではなく、自分で手配したり、主体的な行動が必要な場面もあります。
見積もり依頼
現地調査なしで、建物の構造や面積等をもとに見積もりすることも可能ですが、正確に解体工事費用を算定するためには、やはり実際に現地調査を経て見積もりしてもらうのが一番です。
解体工事業者を選ぶ方法|見極めるために大事な6つのポイント
たとえば、建物周辺の道路が狭く通常の解体工事で使用する重機や運搬車両が入れない立地である場合などには、どうしても作業日数が延びるためその分だけ解体工事費が高くなることもあります。
こうした見積もり金額が高くなる材料は、現地を見なければ分からないことです。
あとから思わぬ追加費用を請求されるなど、費用をめぐるトラブルが生じないよう、見積もりのための現地調査を依頼しましょう。
なお、見積もりについては「解体工事で一括見積りサイトを利用するメリット・デメリットまとめ。」こちらの記事で詳しく解説しております。
解体工事の請負契約
見積金額に納得できれば、いよいよ契約締結です。
解体工事の契約書には特に決まった書式はないので解体業者ごとに書式は異なります。
びっしりと文字が書かれた契約書である必要はありませんが、あまりにも内容の薄い契約書では不安です。
木造の戸建て住宅なら早ければ数日で終了する工事ですが、万一、予定より大幅に工事が遅れてしまった場合にはどうなるかなど、契約書で定めておかないと後から紛争になるおそれがあります。
高額な契約ですから、書面も交わさずに口頭で契約するのは絶対に避けるべきです。
そもそも建設業法では、工事を請け負う場合には必ず契約書を交わし建設業法所定の事項を契約書に記載することが義務づけられています。
なので、解体工事業の許可業者には、500万円以下の解体工事にも建設業法が適用されるため「契約書を作成していない時点で建設業法違反になる」ということは覚えておきましょう。
ライフラインの廃止・撤去
ライフラインとは、電気、ガス、水道などのことを言います。
ガス管や水道管は地中に埋まっていますので、これらは契約している電力会社やガス会社に連絡して廃止・撤去を依頼する必要があります。
ただし、水道については解体工事中にホコリが飛ばないように散水に使用する場合があるので、撤去してしまうと困る場合があります。事前に解体業者との調整が必要です。
近隣挨拶
通常は解体業者が近隣を訪問して工事の案内を配布してくれます。
ただ、建物の解体工事では現代の技術でどんなに慎重に作業を進めても、一定レベルの騒音・振動やほこりなどが発生します。
どんな建物でもいずれは解体するときがくるため、本来はお互いさまですが、騒音や振動をこころよく思わない方がいることもあります。
なので、解体工事業者の案内とは別に、近隣にご挨拶をしておくのが望ましいです。
また、解体工事業者が用意している案内状は、工事期間だけが書かれた不愛想なものもあるので、念のためどのような案内状を配布するのか事前に見せてもらうとよいでしょう。
解体工事前の近所への挨拶は重要!挨拶のタイミングと方法について
解体工事
まず、足場を組んで建物を囲い騒音やほこりが周囲に漏れないようシートで覆ってから作業を始めます。
新築工事などで、足場を組んで周りをシートで覆っている建物をみかけますが、解体工事でもこれと同じような状態になります。
そして、先に建物の内部を解体してから、屋根・梁・柱などの構造体を解体します。
解体工事で出る廃材は、木材、鉄、コンクリートなどさまざまですが、これらを適切に処分できるのは許可をもった事業者でなければできません。
なお、解体工事業者の選び方については別章で詳しく説明します。
解体が終わった土地は、整地作業をして平らに整えます。
建物内部の不用品の処分はどうする?
建物の内部に不用品がある場合、解体の機会にまとめて処分したいものですが、不用品の引き取り業者に依頼すると、解体とは別でお金がかかってしまいます。
そこで、どうやったら不用品の処分コストを抑えられるか、また不用品処分のポイントを解説します。
解体工事業者に依頼できる場合もある
解体する建物の内部に荷物が残っている場合、一般廃棄物の収集運搬業の許可を持っている解体工事業者であれば、不用品の処理もまとめて依頼できます。
建物の解体と廃棄物処理を別々の業者に依頼すると、見積もりの手間があるほか、コストも割高になるので適切な許可を持つ解体工事業者に依頼した方が安く上がる可能性があります。
建物内部に不用品がある場合には、その廃棄処理もまとめて依頼できるか聞いてみましょう。
不用品処理の注意点
壺や絵画のような明らかな高価品であれば、本当に廃棄してよいか事前に問合せがあるかもしれません。
ところが、子供の描いた絵のように(ご家族にとっては思い出の品であっても)第三者にはその価値が分からない物品の場合、確認なく処分されてしまう可能性があります。
あとからトラブルにならないよう、不用品処理の見積もりの際には、建物内部に必要なものや高価品が紛れていないか立ち会って確認しておくべきです。
自分で廃棄して量を減らす
廃棄処分の料金は、当然ながら廃棄物の量と連動しています。なので、自分で処理することができれば、その分だけ処理料金も減らせます。
自治体ごとに料金は異なりますが、同じ粗大ごみ一つでも、自治体に依頼するのと専門業者に依頼するのとでは何倍も料金が違います。
少々手間ですが、自治体のごみ回収を利用するのは出費をおさえる有効な手段です。
ただ、自治体の粗大ごみ回収は、生ごみのように週に何度も回収日があるわけではなく、事前予約が必要な場合もあります。
直前に申し込んでも間に合わない場合もあるので、居住する自治体の情報を確認してください。
また、自宅前や指定の回収場所に引き取りに来てくれますが、搬出する作業までは手伝ってもらえないので、自宅前や指定の回収場所まで運ぶ作業は自力で行う必要があります。
住宅メーカーに解体を依頼するメリットとデメリット
建物を新築する場合などでは、新築する住宅メーカーに解体工事を依頼することも多いはずです。
住宅メーカーに解体工事を依頼するメリットとデメリットをまとめました。
住宅メーカーに依頼するメリット
住宅メーカーに注文すれば、解体から新築まで一つの窓口で進んでいくため、見積もりや交渉の手間がかからないというのが一つのメリットです。
また、住宅メーカーが大手であれば、見積書や契約書もしっかりしており、万一、解体工事中に事故が起こり近隣に損害を与えた場合の補償なども安心です。
住宅メーカーに依頼するデメリット
住宅メーカーは建物を建てる専門であって、解体工事には詳しくありません。したがって、解体工事の注文を受けても、実際には取引のある解体工事業者に丸投げしているのが実態です。
つまり、解体工事業者の代金に住宅メーカーの利益が上乗せされて請求されているだけなのです。
これが、住宅メーカーに解体工事を依頼するデメリットです。
多少高くても安心をとる、という考え方もありますが、わざわざ専門でもない住宅メーカーに高い金額で依頼するのは不経済ともいえます。
また、ハウスメーカーとの比較に関してはこちらの記事「解体工事はハウスメーカーと解体業者のどちらがおすすめか検証してみた。」でも詳しく解説しております。
まとめ
解体する建物の大きさだけでなく、建物の種類によっても、解体工事の見積もり金額も変わってきます。
解体工事は、通常、高額な契約となるので、自分が解体を依頼する建物の種類や特徴を事前に把握しておきましょう。