長屋とは、2戸以上の住宅が連続して作られている建物のこと。
通常の一戸建ての建物であれば、壁や柱なども独立したその家のものということになるため、基本的には解体工事をするかしないかを、その家主が一人で決めることになります。
しかし、長屋は2戸以上の住宅がくっついているたてものになるため、柱や壁の一部を共有していることになりますので、解体する際には当然その横に住む住人に大きな影響を与えることになります。
そのため長屋の一部を解体する場合には、第一に解体工事が本当にできるのかを調べ、できるとなった場合は隣人をはじめとする他の住民の許可を得る必要があります。
また、一部を解体することによって新しく外壁が出来上がることになりますが、そういったところを含む共有部分の補修に必要な費用も施主が負担することになります。
今回は、一般的な建物の解体とは違い様々な制約がつく長屋の解体について見ていきましょう。
長屋の解体
まずは、通常の建物の解体とは大きく異なる長屋の解体工事の特徴について紹介していきます。
長屋の解体工事は難易度が高い
例えば普通の一戸建てを取り壊す際などには、隣家との距離が近すぎると重機を使用するのが困難になったりすることもあるため、通常よりも時間がかかったり解体が難しくなったりすることがあります。
重機が使えない部分は手作業で解体を進めたり、養生シートを取り付ける隙間がないため隣人に迷惑をかけたりすることもあります。
長屋の場合は、隣接どころか壁がくっついているため、解体作業をするのが非常に大変です。
例えば住宅が3戸並んでいる長屋の真ん中の家のみを解体したいとなった場合は、隣接する両隣の住宅に大きな影響を与えますし、取壊しの工事が困難になりがちです。
長屋の切り離し解体
長屋の部分解体をはじめとする、住宅の一部を解体する解体作業のことを、切り離し解体といいます。
通常の解体工事と大きく変わるというわけではないのですが、切り離し解体ではくっついている隣の建物の内部にも養生を行ったり、必要であれば補修を行ったりすることになります。
長屋と言えば昔ながらの木造建築を思い浮かべる方も多いかと思いますが、最近は鉄筋コンクリートなどの長屋も存在するため、構造次第では解体作業もさらに大変になります。
また、数件の住宅が1つの建物として存在しているため、その一部を切り取ってしまうことによって残された建物の耐震性が落ちたり、傾きが生じてしまったりといった可能性もあります。
そのため解体をする前に、まずは本当に解体できるのかをチェックし、その上で残された建物に影響がないように慎重に作業を進める必要があります。
トラブルを未然に防ぐべき
上記のことから、長屋を解体する際にはトラブルが発生しやすいと考えられます。
もちろん普段から隣人との関係が良好な場合であればトラブルを最小限に防ぐことができますが、共有する壁を工事の対象とするわけですから、特に隣人には大きな迷惑をかけることになります。
また、建物がつながっている以上、工事の振動などによってヒビ割れや亀裂等が生じたり、建物が斜めになってしまったりといったリスクも想定されます。
後々トラブルにならないように、工事前に証拠となる写真を撮っておくことが必要になってきます。
長屋の解体に関するトラブルは、後程詳しく紹介させていただきます。
長屋解体前の注意点
長屋は通常の一戸建てとは違い、解体後に残された建物やそこに住む人々に大きな影響を与えることになります。
そのため、解体をする前に必ずしておいたほうが良いことを紹介させていただきます。
解体が可能かチェックする
長屋の一部を解体する際には、いきなり解体業者に解体をお願いするのではなく、そもそも解体が可能な建物なのかどうかということを確認する必要があります。
最近は、新築で長屋が建てられるということが少ないですが、裏を返せば長屋の多くは古い作りの建物ということになります。
建物が古くなればなるほど構造部分が劣化しているはずですし、長屋は全ての住宅が1つになっている1軒の建物ということになるため、お互いの住宅の壁や柱がそれぞれの建物を支え合っているケースがほとんどです。
例えば建物が3戸並んだ長屋であれば、真ん中の建物に大黒柱のような存在の支えが存在していることも多いですので、真ん中だけを切り取り解体してしまうと残された両脇の建物の強度が極端に落ちてしまう可能性があります。
それを知らずに解体をしてしまった場合、残された建物に住む住人から大きなクレームを入れられるリスクが高くなりますし、最悪の場合は立て直しなどの補償をしなければならないことになります。
そうならないためにも、まずは建築士などに長屋全体を診断してもらい、解体は可能なのか、どのように解体できるのかをチェックしてもらう必要があります。
同じ長屋の住民の理解が必要
通常の解体作業を行う場合も、周りに住む人々には騒音や振動、粉塵などによって迷惑をかけることになります。
長屋の場合は建物自体がくっついているため、工事をしている部屋の真横の部屋で、隣人が普通に生活をしなければなりません。
また、建物の一部を取り壊すことによって残された建物にも大きな影響がありますし、今後の生活が変わってしまう可能性もあります。
例えば他に住人が誰も住んでいない長屋であれば解体工事もスムーズにいくかもしれませんが、特に両隣に人が住んでいる場合などは、解体の理由などをきちんと説明して解体工事の了承を得る必要があります。
実際に長屋の解体では隣人とのトラブルが最も多いため、後々問題にならないように工事前にきちんと話し合い、解体許可をもらった場合はその条件などを含めて必ず文書に残しておくことをおすすめいたします。
長屋解体のトラブル
それでは、長屋を解体する上で発生しがちなトラブルにはどのようなものがあるのでしょうか。
代表的なトラブル・問題4つを紹介させていただきます。
切り離しができない
その建物の持ち主が解体したいと思っていたとしても、構造的にそもそも切り離し解体自体が不可能だというケースがあります。
同じ長屋であっても、建物の端に位置する住宅を切り離すだけであれば大きな影響が出ることは少ないかもしれません。
しかし、その建物全体を支えているような構造部分を切り取ってしまうと、残された建物の強度などが極端に落ちてしまいますので、物理的に解体ができないこともあるのです。
もちろん解体工事と一緒に残された建物に対する補修工事を行う必要はありますが、それでも老朽化などが原因で切り離しができないことがあります。
そういう場合は、解体工事自体をあきらめざるを得ません。
他の隣人が反対する
残された建物に今後も住み続ける方にとって、共有部分を解体してしまうのは大きなデメリットにしかなりません。
その住宅を切り取ることによって、自分が住む建物が崩れてしまうのではないか、傾いてしまうのではないかというリスクがあるため、不安になる住人も少なくないのです。
また、住人だけではなく、その長屋の所有者の4分の3以上の承諾を得られなければ、そもそも長屋の一部を取り壊すという許可が下りないというルールもあります。
本人としてはどうしても解体したいと希望していたとしても、このような理由から解体ができなかったり、できたとしても他の住人の理解を得るのに時間がかかったりするケースは珍しくはありません。
解体費用が高額になる
長屋を切り離し解体で取り壊す場合は、切り離した後の補修にかかる費用も施主が負担する必要があります。
壁を外壁仕様にしたり、補強するための構造をつけ足したりといった工事が必要になってくるのですが、切り離し解体だけではなくそういった補修工事の費用が高額になって解体できないといったケースもあります。
例えば施主が良いと思ってた補修方法が隣人に受け入れてもらえず、隣人が提案する仕様にする場合は思っていた以上にコストがかさむ可能性があります。
通常であれば施主と解体業者の間で工事費用の交渉がなされるはずですが、長屋の場合は解体業者や補修業者と他の住人との間に施主が挟まれることになり、金銭面での折り合いがなかなかつかず着工までに時間がかかってしまうのです。
解体工事後のクレーム
解体工事を行った後に、それまでは問題なかった家が傾いてしまった、大きな車両が通るたびに住宅が揺れる感じがするといったクレームを入れられることがあります。
そういったクレームを防ぐためには、やはり事前に住民の理解を得て、それを書面に残しておく必要があります。
しかし、仮に書面に残しておいたとしても、実際に解体工事の影響で家が大きく傾いてしまったような場合は、施主としても補償しないというわけにはいかないかもしれません。
もちろん施主や解体業者としてもできる限りのことをやったにも関わらず影響が出てしまうということも多いですので、そのあたりは当人同士や弁護士を挟んだ話し合いが必要になってきます。
解体にかかるコストと業者の選び方
長屋を解体するには、様々なトラブルがつきものだということがお分かりいただけたのではないかと思います。
また、解体自体にも高い技術が要求される作業になることが多いのですが、一体必要なコストはどれくらいになるのでしょうか。
一戸建ての解体よりも高額
通常の解体工事であれば、解体する予定の建物の坪単価と面積を調べることによって、その建物の解体費用の相場を割り出すことが可能です。
しかし、長屋の場合は単純に建物を取り壊すだけではなく、残された建物の補修費用も必要になってくるため、単純に面積だけで料金を算出することができません。
例えば補修の仕様によっても、50万円で済む工事が100万円かかってしまうというようなことがありますので、一概に言うことができないのです。
また解体作業も、隣人に大きな迷惑がかかるため重機を利用せずに手作業で行ったりすることになります。
手作業での解体は重機を使った解体よりも時間がかかりますので、単純に工期が長引くことによるコストも必要になってきます。
このような事情から、一般の一戸建ての解体と比べると長屋の切り離し解体にかかる費用は高額になりがちです。
経験のある業者を選ぶ
長屋の解体は、通常の解体作業とは異なるため、できれば今までに長屋の解体を行った経験のある業者を見つけることをおすすめいたします。
いくら一般の家屋の解体工事の経験が豊富な業者であったとしても、長屋解体の経験が全くない場合は工事に時間がかかったり、光学の費用を請求されたり、または工事後に様々なトラブルが発生したりといったリスクが大きくなります。
例えば、全く有名でない解体業者であったとしても、長屋の切り離し解体を専門にやってきたという業者であれば、解体作業がスムーズにいく可能性が高くなりますし、ノウハウがある分、様々なトラブルの解決法を熟知している可能性があります。
長屋の解体をする際には、経験や実績のある業者にいくつか見積もりを取ってもらい、頼りになりそうなところを選ぶようにするとよいでしょう。
最後に
長屋は一家族の持ち物ではありませんので、一戸建ての解体と比べると様々な制約がつけられます。
他の住人がこれからも住み続ける建物の一部を解体することになりますので、解体工事自体も慎重に行う必要がありますし、残された建物の補修工事も必要になってきます。
そのため、通常の解体工事と比べると、より長い時間が必要になるケースが多いですし、解体費用も高額になりやすいです。
さらに、長屋の解体は隣人との間で揉めたり大きなトラブルに発生する可能性が高いです。
しかし、経験豊富な解体業者を選ぶことができれば、長屋解体に関する様々なリスクを下げることができるはずですので、知名度などではなく経験と実績で信頼できる解体業者を探すことをおすすめいたします。