解体工事をはじめとする工事を行うと、振動や騒音が周りに響き渡ることになります。
そのため、解体工事の騒音や振動が原因でご近所さんとトラブルになったり苦情を入れられたりするといったケースは珍しくはありません。
普通に考えて、夜中に解体工事を行うと昼間以上に周りに迷惑をかけることになりますが、解体工事ができる時間帯というのは決められているのでしょうか。
実は、法律によって解体工事の出来る時間帯は決められています。
この記事では、そんな解体工事ができる時間帯や、解体工事に関する法律について紹介していきます。
解体工事に関わる法律
解体工事には振動や騒音がつきものですが、実はそれらに関する法律が存在します。
- 振動規制法
- 騒音規制法
この2つは、解体工事で発生する振動や騒音に関わる代表的な法律です。
振動規制法
振動規制法は、解体工事に特化した法律ではなく、工場での振動や車の振動などの、あらゆる振動に関する法律になります。
ただし、解体工事などの建設工事に関しては以下のような記述があります。
第十五条 市町村長は、指定地域内において行われる特定建設作業に伴つて発生する振動が環境省令で定める基準に適合しないことによりその特定建設作業の場所の周辺の生活環境が著しく損なわれると認めるときは、当該建設工事を施工する者に対し、期限を定めて、その事態を除去するために必要な限度において、振動の防止の方法を改善し、又は特定建設作業の作業時間を変更すべきことを勧告することができる。
2 市町村長は、前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に従わないで特定建設作業を行つているときは、期限を定めて、その勧告に従うべきことを命ずることができる。
3 市町村長は、当該施設又は工作物に係る建設工事の工期が遅延することによつて公共の福祉に著しい障害を及ぼすおそれのあるときは、当該施設又は工作物に係る建設工事として行われる特定建設作業について前二項の規定による勧告又は命令を行うに当たつては、生活環境の保全に十分留意しつつ、当該建設工事の実施に著しい支障を生じないよう配慮しなければならない。
参考:振動規制法
騒音規制法
振動規制法と内容はほぼ同じですが、騒音も騒音規制法によって制限されています。
こちらも解体工事に限った騒音に対する法律というわけではないのですが、振動規制法同様に以下のように記されています。
第十五条 市町村長は、指定地域内において行われる特定建設作業に伴つて発生する騒音が昼間、夜間その他の時間の区分及び特定建設作業の作業時間等の区分並びに区域の区分ごとに環境大臣の定める基準に適合しないことによりその特定建設作業の場所の周辺の生活環境が著しく損なわれると認めるときは、当該建設工事を施工する者に対し、期限を定めて、その事態を除去するために必要な限度において、騒音の防止の方法を改善し、又は特定建設作業の作業時間を変更すべきことを勧告することができる。
2 市町村長は、前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に従わないで特定建設作業を行つているときは、期限を定めて、同項の事態を除去するために必要な限度において、騒音の防止の方法の改善又は特定建設作業の作業時間の変更を命ずることができる。
3 市町村長は、公共性のある施設又は工作物に係る建設工事として行われる特定建設作業について前二項の規定による勧告又は命令を行うに当たつては、当該建設工事の円滑な実施について特に配慮しなければならない。
参考:騒音規制法
振動規制法と騒音規制法の概要
解体工事における振動規制法や騒音規制法は、工事によって発生する振動や騒音に対して適切な規制を行うことによって、国民の健康の保護を目的としている法律です。
具体的には、解体工事において、くい打機などを利用した作業は大きな振動や騒音を発生させるため、そういった作業はこれらの法律の規制対象となるのです。
振動については総理府令が、騒音については環境大臣が目安となる大きさや日数、曜日や作業の時間帯などの基準を定めています。
そのため、それぞれの市町村長はその規制対象となる解体工事が不適切だとなった場合に、改善勧告などを行うことができるのです。
騒音規制法が定める解体工事時間
それでは、法律によって解体工事の出来る時間帯は決められているのでしょうか。
騒音規制法によると、
- 住宅地・商業地
- 工業地帯
でそれぞれ工事の出来る時間帯が異なります。
詳しくは以下をご覧ください。
区域 | 第1号区域 | 第2号区域 |
住宅地・商業地 | 工業地帯 | |
時間帯 | 午前7時~午後7時 | 午前6時~午後10時 |
1日の作業時間 | 10時間以内 | 14時間以内 |
作業日数 | 連続6日が限度 | 連続6日が限度 |
工事時間を午前8時~午後5時に設定している業者も多い
上記のように、住宅地や商業地などの一般の方々が多く生活を送る場所では、解体工事の出来る時間帯が午前7時~午後7時の12時間になります。
しかし、この12時間の間ずっと工事をし続けるような業者は少なく、一般的には従業員の8時間勤務に合わせて午前8時~午後5時が多いです。
1日の作業時間が10時間と定められている以上、長時間の工事を行ったとしても最大で午前8時~午後6時あたりが妥当です。
また、公共事業の場合は自治体が工事の時間を午前8時~午後5時に指定することも少なくありません。
早朝や夕方は、通勤時間や帰宅時間に当たり人通りが多くなることから、騒音や振動が迷惑になったり、思わぬ事故につながったりするリスクもあります。
そういった理由から、解体工事は午前8時~午後5時に行われることが多いのです。
そのため、例えば午後6時に工事をしているのを見るとおかしいと感じる方もいるかもしれませんが、それは法律上は全く問題がないということになります。
解体工事に伴う道路の通行止めも同じ
解体工事の中には、車両を駐車しておく関係で道路を一時的に通行止めにするようなケースも存在します。
例えば、近隣の道路が狭い場合は、大きな車両を置いておくと他の車が通れないため、その道ごと通行止めにしてしまうのです。
道路を通行止めにできる時間
工事ができる時間帯が騒音規制法によって午前7時から午後7時と決められています。
そのため、工事によって通行止めにできる時間帯は、その前後30分を含めた午前6時半~午後7時半となります。
重機を置いての作業時間は午前7時~午後7時になるのですが、作業の準備や後片付などの時間も考えると、前後30分くらいは見ておいたほうが良いでしょう。
ただし、1日の作業時間が10時間までになるため、例えば午前6時半に通行止めになった道は午後5時半には解除されていなければなりません。
道路の通行止めも警察への申請が必要
解体工事をするにあたって様々な届け出を出す必要がありますが、仮に道路を通行止めにするとなった場合も、同様に管轄の警察にその旨を届け出る義務があります。
具体的には道路使用許可と呼ばれるものになり、申請する警察署によって取得日数は異なりますが、大体申請から1日~3日ほどで取得可能です。
解体業者に工事をお願いする場合、道路を通行止めにする必要がある際には業者が代行して取得してくれるものになるため、施主が何かしなければならないというわけではありません。
しかし、この許可を取らずに通行止めをしたり道路を勝手に使用したりしていた場合は、警察から指導を受けたりすることで工事が遅れる可能性もあります。
トラブルなく解体工事を終わらせるためにも、必要な許可や資格などは施主側でも把握しておき、きちんと取得したかを業者に確認することをおすすめいたします。
⇒解体工事を自分で行う際の注意点と解体工事に必要不可欠な許可や資格
解体工事で発生する騒音や振動はトラブルの元
どれだけ気を付けて解体工事を行っていたとしても、騒音や振動はなくせるものではありません。
例え工事時間に気を付けて解体作業をしていても、近隣の住民からクレームが入ることは珍しいことではないのです。
騒音によるトラブル
日中の騒音は、夜間の工事の騒音と比べるとまだましなものだといえるかもしれませんが、それでも近隣で生活を送る住民からすると煩わしいものに他なりません。
中には夜勤で朝から眠るという生活を送っている方もいるでしょうし、音が大きすぎて赤ちゃんが起きてしまうというクレームが入ることもあります。
ある程度は仕方のないモノだと受け止めてくれる方も多いですが、やはり解体現場に近ければ近いほどその被害も大きくなります。
解体業者にも、養生シートをきちんと利用してできるだけ音を防いでもらうなどの努力をしてもらうようにしましょう。
⇒解体工事における騒音問題。トラブルになりやすいケースと対策について
振動によるトラブル
場合によっては、騒音よりも振動の方がクレームになりやすいこともあります。
実際に、真横で地面が大きく揺れるような工事を長時間行われたら、やはり誰だってクレームを入れたくなるものです。
また、その振動によって隣家のエクステリアを破壊してしまうといったトラブルも発生する可能性があるため、解体業者は細心の注意を払って作業をしなければなりません。
やはり騒音同様ある程度は仕方のない部分もありますが、クレームが入るようなら振動の出る作業を最小限に抑えてもらうなどの工夫が必要になってきます。
トラブルを避けるために
解体工事には様々なトラブルがありますが、事前に近所に解体工事をするという挨拶をするかしないかで、クレームを受ける可能性が大きく変わってきます。
事前に騒音や振動の伴う工事が行われるとわかっていれば、実際にそれらが発生してもお互い様だと受け止めてくれる方も多いはずです。
しかし、何の告知もなしにいきなり工事を始めた場合、騒音や振動がいきなり発生することになるため、当然クレームを受けやすくなります。
近所の方々と仲良くやっていくためにも、解体工事前には必ず挨拶回りをすることをおすすめいたします。
⇒解体工事前の近所への挨拶は重要!挨拶のタイミングと方法について
時間外の工事を見つけた際の対策
業者からすると、1日に長時間の解体作業をすることで工期を短くすることができるため、そちらの方が工事を効率的に終わらせることができます。
実際に、法律で定められているからという理由で、仕方なく規制時間にしたがっているという業者も少なくありません。
しかし、その法律を守らずに長期的な工事や時間外の工事をする業者も存在します。
そのような業者を見つけたら、
- 施主に相談する
- 業者に直接言う
- 行政に相談する
のいずれかを行うことになります。
施主への相談
もし時間外の解体工事を行っているということを見つけたのが工事現場の近くに住む方なのであれば、まずは施主に相談することをおすすめいたします。
施主としても、法律に違反してまで工事を早く終わらせたいと思っていないはずですし、そんなことを許していれば工事が一旦ストップしてしまうかもしれません。
施主に言えば、施主と業者の間で工事内容の見直しをすることになるため、それで時間外の工事がなくなる可能性が高いです。
業者へのクレーム
業者へ直接クレームを入れるのは、できれば施主の口からが望ましいです。
例えば近隣の住民が直接解体業者に文句を言うケースもありますが、工事をすることでお金をもらう施主からのクレームじゃないということで軽く受け止められるケースもあるからです。
そのため、近隣の住民が時間外工事を見つけた場合はそれを施主に言い、施主から業者に伝えてもらいましょう。
行政へ相談
施主が注意をしても直らない場合は、自治体に相談してみることをおすすめいたします。
騒音規制法や振動規制法については上述した通りですが、地域によってはそれとは別に独自の条例を制定しているところもあるため聞いてみるとよいでしょう。
最悪の場合はそれで工事が一時中断してしまうことも考えられますが、それ自体は仕方のないことだと言えるのではないでしょうか。
そうならないためにも、地域の住民からクレームが入ったときには、施主から業者にきちんと話をしておくことをおすすめいたします。
まとめ
社会で生活を送っていくためには決められたルールに従う必要がありますが、解体工事についてもそれが言えます。
どれだけ解体の技術に優れていたとしても、ルールが守れない業者が解体作業を続けるというのはあってはならないことです。
施主の中には、できるだけ早く解体工事を終わらせたいと考える方もいますが、それを業者に催促することで1日の作業時間が延びてしまっては逆効果になることもあります。
また、工期が1日短縮されればその分スタッフに支払う日当が減るため、無理な解体工事費用の値下げも時間外工事を促す原因になることがあります。
もちろんそれを引き受ける業者にも問題がありますが、無理な注文をする施主がその一因となるケースもあるため、無理な工期の短縮、値下げなどは避けるべきです。
トラブルやクレームを最小限に抑えて気持ちよく解体工事を終えるためにも、きちんとルールを守る業者を選ぶようにしましょう。