建物を解体して建物を新築する、更地にして売却する、駐車場にする、など建物を解体する事情はさまざまです。

特に、解体後の予定が決まっている場合は、解体工事にどのくらいの日数がかかるのか気になるところです。

解体工事にはどの程度の日数がかかると見込んでおけばよいのか、また、解体工事が予定より伸びることはないのか、解体工事の工期について、気になる問題を解説します。

工期の基本を押さえる

そもそもの話ですが、「工期」とは工事にかかる期間のことをいいます。

まず、工期の基本的な知識と標準的な工期について説明しましょう。

工程表とは?

「工程表」という言葉はご存知でしょう。要するに工事のスケジュールを一覧化したものです。

工程表をみれば、

  • この日にどういう工事をする
  • この作業には何日くらいかかる

という内容が一目でわかります。

工程表は頼まなくてももらえる?

解体工事に限らず、建設業界では、事前に工程表を作成して作業に着手するのが一般的です。

半日~1日で作業が終わる場合には、工程表を作成しないこともありますが、数日にまたがる工事の場合には工程表を作成します。

依頼主に工程表を示して、スケジュールの了解を得てから着手しますので、通常は依頼しなくても工程表が提示されます。

もし、工程表を提出してもらえなければ依頼しましょう。

「標準的な工期」はない?

建物の構造(どのような素材で建築するか)には以下のような種類があり、その構造ごとに解体しにくさが異なります。

そのため、同じ面積の建物であっても、構造によって解体工事にかかる工期も変わってきます

そこに「建物の大きさ」という要素も加わるため、一律に「何日くらい」という説明はできません。

建物の構造別に変わる工期

先ほど説明したとおり、建物の構造や大きさによって必要な工期は異なります。

仮に、建坪25坪(80㎡)くらいの二階建て住宅の場合だと、構造種類別(木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造)の工期の目安は以下のようになります。

  • 木造建物の場合:3~10日
  • 鉄骨造建物の場合:10日~
  • 鉄筋コンクリート造建物の場合:14日

解体工事の流れ

解体工事というと、大きな重機を使って一気に建物を壊しているイメージがあるでしょう。

しかし、いきなり重機で壊し始めるのではなく、そこに至るまでの手順があるのです。

ここでは解体工事では、どのような作業が行われているのか、具体的に順を追って解説します。

なお、ここでも建坪25坪(80㎡)くらいの二階建て住宅を想定しています。

現場立ち会い

解体工事業者に任せっきりでも解体作業はスタートできるのですが、できるだけ解体工事が始まる前に、現地で打合せして確認しておきましょう。

たとえば、建物内部に家財などを残したまま解体する場合には、本当にすべて廃棄処分としてよいのか、現地で最終確認しておかないと、後から「あれは残してほしかった」と抗議しても、あとの祭りです。

また、庭の植木のうち一部を移植する場合なども、どの木が移植の対象なのかを指定しておく必要があります。

近隣挨拶

これも解体工事業者がやってくれるのですが、解体工事業者と同行するか、独自に近隣にご挨拶しておくのが望ましいです。

建物の解体工事では、現代の技術でどんなに慎重に作業を進めても、一定レベルの騒音・振動やほこりなどが発生します。

本来はお互いさまですが、思わぬところでクレームが入り、解体工事が一時中止に追い込まれることもあります。

外構の解体

「外構」とは、門や塀、カーポートなどのことをいいます。

解体に使用する重機やダンプなどが入れるよう、まず、これらの外構構造物を先に解体するのです。

所要日数は外構の状況によって変わります。

足場の設置

建物の周りに足場を組み立てて防音シートで囲い、近隣への騒音やホコリの影響を抑える作業です。

足場を設置する作業は通常1日かかります。

屋根・内装の撤去作業

先ほど説明したとおり、いきなり重機で壊すわけではなく、屋根材や内装材を撤去してから、建物本体を取り壊し始めます。

たとえば、瓦葺きの家であれば、職人さんが屋根に上がって瓦を撤去します。また、建物内部には窓ガラス、サッシ、畳、石膏ボードなど、さまざまな素材が使用されていますので、これらを材料ごとに分別します。

解体工事で排出される建材は「産業廃棄物」ですので、建設リサイクル法によって分別が義務付けられるため、いきなり重機で壊すわけにはいかないのです。

屋根材の撤去は1日~、内装材の撤去も1日~です。

建物本体の解体

そして、ようやくここで建物本体の解体にとりかかります。建物本体とは、柱や梁など建物の構造体のことです。

同じ木造でも在来工法、2X4工法など複数の工法がありますが、木造建物であればだいたい2日~、鉄骨造や鉄筋コンクリート造は4日~の作業日数が必要になります。

建物基礎の解体

建物の柱や梁などを解体しても、まだ頑丈な基礎が残っています。

建物の新築工事の際には、通常、地表面から数十センチ掘り下げて、建物の基礎を作っていますので、これを解体するためには掘り起こす作業が必要となります。

また、近年の建物であれば、基礎は鉄筋コンクリート製のため、解体には重機が必要で、かなりの騒音や振動がともないます。

基礎の解体作業も1日~です。

整地、清掃

解体作業で散らばった木片やコンクリートガラ(基礎の解体で出るコンクリート片)を清掃して、土地を平坦に均す作業です。整地によって解体作業はようやく終了します。

整地や清掃作業も1日~です。

工期を左右する事情

標準的な作業日数について説明してきましたが、建物の条件によっては標準的な工程より延びる場合があります。

また、突発的な事情によって工程表で予定したとおりには進まないこともあります。

建物が狭隘(きょうあい)地にある場合

狭隘地とは、周辺の道路が狭く、車両が入って来られないような土地のことをいいます。このような土地に建物が建っている場合、重機や運搬車両が入れないため、「手壊し」、「手運び」などが必要になります。

「手壊し」とは、文字どおり、解体工事の職人さんが手作業で解体すること、「手運び」とは一輪車などで運び出す作業のことをいいます。

重機や運搬車両があれば一瞬で終わる作業でも、手作業だと何日もかかります。

長屋を解体する場合

都市部では昔から、狭い土地を有効に使うため、「長屋」といって建物の壁を隣の家と接して建てる方法があります。

総務省統計局の住宅・土地統計調査によれば、平成25年時点で、日本国内に長屋は約129万戸あり、全住宅の2.5%を占めています。

長屋を解体するには、隣の建物とくっついている壁の切り離しが必要ですが、古くからある木造長屋の場合、解体工事の振動によって隣の建物に損傷が生じることもあるため、重機が使えず「手壊し」が必要となります。

天候

天候不順は、工程表の予定を狂わせる事情の典型です。

梅雨や台風のシーズンであれば、あらかじめ工期に余裕を見ていますが、こればかりは実際に作業が始まってみなければわかりません。

地中障害物がある場合

昔は建築廃材の処理方法に対する意識が低く、建物を取り壊したときに、そのまま廃材を地中に埋めてしまっているケースもあります。

こうした地中障害物は、解体工事を始めてから判明するため、地中から出てくるモノや量によっては、工事が延びる可能性があります。

近隣クレームが発生した場合

解体工事の騒音や振動は大きいため、近隣からクレームが入り、工事の中断を求められることがあります。

また、もともと隣家との折り合いが悪い場合には、ここぞとばかりに解体工事に難癖をつけられるケースもあります。

工事から出る騒音については条例等による規制があるので、その規制値内の騒音であれば、本来、解体工事をわざわざ中断する必要はありません。

一旦、近隣からの工事中止の申入れを受けて工事を止めてしまうと、工事再開にも近隣の同意を得なければならない流れになってしまうため、近隣に事情をご説明して、工事を続行するのが望ましい対応です。

そうはいっても、解体後に新築を予定している場合などは、今後のお付き合いもあるので、強引に解体工事を続行してよいものか悩ましいところです。

こうしたトラブルが起こらないよう、近隣には、解体工事が始まる前からコミュニケーションをとり、解体工事について理解を得るように根回ししておきましょう。

建物はいつか解体する日が来るのですから、本来はお互いさまです。

工期より大幅に遅れたらどうする

当初予定していた工期より遅れることを「工期遅延」といいます。

きちんとした契約書を交わしていれば、解体工事の遅延に対するペナルティについても記載されています。

したがって、契約を交わす前に、解体工事が遅れたらどうなるのか、契約書の内容を確認しておくべきです。

工期遅延による損害

工期が延びたしたからといって、解体工事の代金が上がる訳ではないので、解体工事の完了を急ぐ事情がなければ、それほど神経質になることはありません。

しかし、解体後に新築工事を予定していて、すでに新築工事の工期が決まっている場合などは、解体工事の遅れが新築工事にも影響します。

そのため、工期遅延によって損害が発生する場合には、解体工事業者が損害賠償する義務を負うことになります。

もっとも、損害の算定は難しいため、一般的な契約書では「工事の遅延日数に応じた遅延損害金を支払う」という取り決めになっています。

工期遅延はすべて解体工事業者の責任?

契約書に工期遅延によるペナルティについて記載がある場合でも、通常は「解体工事業者の責任で工事が遅れた場合」という条件付きになっています。

つまり、遅延損害金が発生するのは解体工事業者のせいで工期が遅れた場合だけです。

先ほど、工期遅延が発生する事情を取り上げましたが、たとえば、「天候」は解体工事業者ではコントロールできないため、大雪の影響で工事が中断してしまったとしても、解体工事業者の責任を追及することはできません。

また、地中障害物なども掘り返して初めて分かることが多いため、責任追及は難しくなります。

まとめ

解体工事ではどのような作業が行われるのかを知ることで、解体工事に相応の日数を要することが理解できます。

また、不測の事態によって解体工事の工期が延びる可能性があることも理解しておきましょう。