解体工事は、建物を壊すだけの作業ではありません。
建物には、通常コンクリートでできた「基礎」の部分があり、基礎は地中に埋まっているので、地中まで掘り返して解体しなければなりません。
そうすると、地中を掘り返す作業中に、解体予定の建物とは関係のない埋設物が発見されることがあるのです。
この場合に解体工事の追加費用は誰が負担するのでしょうか?
この記事ではそんな地中埋設物が出てきた場合の対処法を紹介していきます。
地中埋設物とは?
解体工事を行う現場に埋まっているものを「地中埋設物」や「地中障害物」といいます。ここでは「地中埋設物」という表現に統一します。
自宅の敷地のことならちゃんと把握していると過信してはいけません。
例えば、父親や親族から相続した土地などでは、あなたが知らない頃から地中埋設物が存在している可能性もあります。
現実に、解体工事中に地中埋設物が発見されるケースは珍しくないのです。
地中埋設物の種類
一口に地中埋設物といっても、種類はさまざまです。
地中埋設物として、よく問題になるものを4つ挙げておきます。
建築廃材
建築廃材とは、コンクリート片や木片、瓦などのゴミのことで、「ガラ」と呼ばれたりします。
これは、今行われている解体工事から出たのではなく、以前の建物を解体するときに出た建築廃材をそのまま地中に埋めて廃棄してしまったことが原因です。
現在では、建築廃材の処分は厳しい規制があり、マニフェストという伝票を使って不法投棄などができないように管理されています。
マニフェストの仕組みについてはこちらを参考にしてください。
→マニフェストとは?産業廃棄物管理票の見方と管理方法について
しかし、マニフェストが導入されたのは1998年からで、昔は不正な建築廃材の処理がよく行われていました。
昔の解体業者の中には、廃材処分費を安くする上げるために、解体工事で排出された廃材をそのまま現場に埋めているような業者もいたのです。
また、解体工事業者の仕業ではなく、以前の土地所有者が「自分の土地だから」と安易にゴミを捨てていた場合もあります。
建物の基礎・杭
次に建物の基礎や杭ですが、まず「基礎」と「杭」について説明しておきましょう。
建物は、地上に建っている部分しか目に入りませんが、実は地面を掘り下げて、鉄筋コンクリートで「基礎」を作っています。
また「杭」といっても、木を削って打ち込んだ簡単なものではありません。建物は非常に重いため、土地の強度によっては、建物の重さに耐えられず、徐々に建物が沈んでしまうことがあります。
このような建物の沈下を防ぐために、地中深くまで何メートルもの杭を打ち込んでいることがあるのです。杭は金属製のものやコンクリート製のものがあります。
杭は地中深くまで埋まっているため、撤去するにはかなりの手間と費用がかかります。
なお、ここでいう「基礎」や「杭」とは、現在取り壊そうとしている建物の基礎や杭ではなく、以前建っていた建物の基礎・杭です。
本来は建物解体時に一緒に撤去するべきですが、手間や費用がかかるため、そのまま埋め戻してしまっているケースもあるのです。
ちなみに、建物の設計図面などがあれば、杭が地中深くまで杭が打ち込まれていることは予測できるので、解体工事業者には事前に情報提供しておきましょう。
井戸・浄化槽
かつては、自宅の敷地内に井戸を掘っている家も多くありました。
上水道の発達によって井戸が不要になり、工事で埋め戻すことも行われていますが、埋め戻し工事に問題がある場合もあります。
浄化槽とは、生活で排出される汚水を浄化するための設備です。
都市部では、生活排水は下水道につながっているので浄化槽は使用しませんが、地方など下水道の整備が遅れている地域では浄化槽を敷地内に設置しています。
浄化槽は、大きなタンク状のもので、これが地中に埋まっているのです。
浄化槽を撤去するときには、本来は掘り起こして撤去しなければなりませんが、手抜きでそのまま土や石を入れて埋め戻されていることもあります。
岩石
解体工事中に重機で掘り起こしているときに地中から大きな岩石が出てくることがあります。
以前、建物を建てるときから存在したのでしょうが、あまりにも大きすぎて撤去できず、そのまま建築工事に入ってしまうこともあります。
こればかりは予測もできず、当時、建築に関係した方々もやむを得ず、埋め戻した可能性もあるので仕方ないケースもあります。
地中埋設物は誰のせい?
先ほど挙げたような地中埋設物は地中に隠れているため、解体工事を開始して初めて判明することが大半です。
特に建築廃材についてはまったく予測ができないので、解体工事中に地中埋設物が発見されたとしても、解体工事業者の責任は問えません。
解体工事業者は、あくまで「今ある建物を解体するとしたらいくらか」という前提で見積もりをして、解体工事の契約を交わしています。
→解体工事で掛かる費用の相場。抑えるべきポイントとからくりについて
したがって、予測できない事情で追加費用がかかった場合に、追加費用を解体工事業者に負担してもらうのは不条理でしょう。
地中埋設物による追加費用のトラブルを避ける方法
もし、地中埋設物が見つかって追加費用が必要になった場合、追加費用の支払いを求められるのは仕方ありません。しかし、どうせ負担するなら納得して気持ちよく支払いたいものですよね?
そのために注意しておくべきポイントを紹介します。
できる限り情報提供しておく
解体工事業者が予測できなかった責任を追及するのではなく、予測できるように情報を提供しておくのがお互いのためです。
例えば、以前の建物の図面などがあれば、「もしかするとこのあたりに杭が埋まっているかもしれない」、「杭が出てきた場合には○○円くらい追加費用がかかるかもしれない」という情報を共有できます。
かつて井戸や浄化槽があったという情報も同様です。
情報共有があなたを助けることもある
結局、追加費用はあなたの負担ですから、「杭や浄化槽の情報を事前に申告しても何の得もない」と考えるのは早計です。
例えば、あなたが建物を解体し、土地を更地にして売却するとしましょう。
あなたが「杭」が埋まっている可能性を知りながら解体工事業者に告げず、解体工事業者も杭を見つけることなく解体工事が終了したとします。
その後、あなたから土地を購入した買主が、建物の新築工事を始めたところ、地中から杭が出てきたとします。杭の除去には追加工事が必要になりますが、土地の買主は、前所有者であるあなたの責任を追及するでしょう。
もし、杭の撤去工事のために新築工事が遅れれば、工事遅延による損害もあなたに請求するかもしれません。
持っている情報は事前に告知し、できる限り将来のリスクを排除しましょう。
納得して追加費用を支払うために
地中埋設物が見つかった場合、追加費用の負担はやむを得ないものと考えてください。
しかし、請求された追加費用が妥当であるかどうかは別の問題です。
追加費用の紛争を防止するためのポイントを2つ挙げておきます。
地中埋設物の記録を残してもらう
疑えばキリがありませんが、本当に地中埋設物が出てきたのか確認する必要があります。
まともな解体工事業者であれば、追加料金が発生するほどの地中埋設物が見つかったときには、報告があるはずです。
しかし、中にはタイムリーに報告せず、あとから多額の追加費用を請求してくるような解体業者もあるので注意が必要です。
解体工事がすべて終わり、更地になってしまったあとで、「地中から大量の埋設物が見つかりました」と報告されても困ります。
解体工事業者には、追加料金がかかるような地中埋設物が発見されたときには、必ず連絡するよう依頼しておきましょう。
また、どうしても立会い確認ができなければ、どこから、何が、どのくらい出てきたのかが分かるように写真を残してもらってください。
追加費用の計算根拠があるか
契約時の見積書を確認してください。
見積書の書き方が大雑把で、内訳がよく分からない書き方になっていないでしょうか?
そもそも、見積書自体が存在せず、契約書に総額だけ記載されていないでしょうか?
解体工事が始まる前はお互いを信頼していますが、万一、トラブルが発生して関係が悪化したときには、すべてを疑ってかかるようになってしまいます。
見積書は、内訳が細かく書かれているものほど親切だと考えてください。
例えば、見積書では、建設廃棄物の処分費が1トンあたり1万円で「1万円×20トン=20万円」だったとします。
もし地中から廃材が2トン見つかった場合には、2万円の追加費用が必要になります。
このように具体的な計算根拠があれば、追加される作業量や廃材の量によって、追加される金額が明らかなので納得できます。
契約時点で具体的な内訳が示されておらず、あとから計算根拠も分からないまま「追加費用が2万円です」と請求されても納得できないでしょう。2万円ならともかくこれが20万円であったら、ますます納得できないはずです。
解体工事の見積書の見方についてはこちらを参考にしてください。
→解体工事の見積書でチェックしたい5つの項目と適正な値引きについて
アスベスト除去の追加費用
地中埋設物ではありませんが、追加費用が発生して問題になるものとして「アスベスト」があります。
アスベストは健康被害を及ぼすおそれがあるため、現在では建物に使用が禁止されており、除去作業には適切な除去作業が義務付けられ、アスベストのレベルによっては高額な除去費用が発生します。
アスベストは解体する建物を事前に調査しておけば、使用しているかどうか分かる場合も多いのですが、万一、見えない部分に使われていた場合には、追加費用が発生する可能性があります。
基本的には地中埋設物と同じ考え方です。
まとめ
地中埋設物は事前に予測することが難しいため、解体工事業者の見積もりミスとはいえません。
そのため追加費用は注文者の負担となるのが原則です。
どうせ追加費用を支払うなら、しっかり納得して支払えるように、ここで取り上げたポイントを実践してみてください。
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