なかなか日常の中で接点のない解体工事業者ですが、いざ解体工事を依頼しようとすると、解体工事業の看板を掲げている業者が意外と多いことに気付くはずです。
そうなると解体工事業者を選ぶ場合にどのような点に着目すればよいか?気になりますよね?
そこでこの記事では、そんな解体工事業者を選ぶさいの5つのポイントを解説します。
目次
建設業許可・解体工事業登録があるか
不動産業を営む場合には、宅地建物取引業の免許がなければ絶対に営業ができません。
これと同様に、解体工事業の場合は
- 建設業許可
- 解体工事業の登録
のいずれかが必要とされています。
適切な許可や登録があることが解体工事業者選びの第一のポイントです。
請負金額500万円(税込)以上の解体工事は建設業許可が必要
建設業法により、請負金額500万円(税込)以上の解体工事を請け負う場合は建設業許可が必要になります。
実は建設業許可は専門分野ごとに細分化され、以下のとおり現在は29業種の建設工事の許可があり、このうちの一つに「解体工事業」という許可があるのです。
ただし、解体工事業は平成28年に新設された許可であるため、すぐには解体工事業許可を取ることができない場合もあります。
そこで、平成31年5月31日までは「解体工事業」の許可がなくても「とび・土工工事業」の許可があれば500万円以上の解体工事を請け負うことができます。
土木一式工事業、建築一式工事業、大工工事業、左官工事業、とび・土工工事業、石工事業、屋根工事業、電気工事業、管工事業、タイル・レンガ工事業、鋼構造物工事業、鉄筋工事業、舗装工事業、しゅんせつ工事業、板金工事業、ガラス工事業、塗装工事業、防水工事業、内装仕上工事業、機械器具設置工事業、熱絶縁工事業、電気通信工事業、造園工事業、さく井工事業、建具工事業、水道施設工事業、消防施設工事業、清掃施設工事業、解体工事業
ちなみに、建設業の許可には国土交通大臣の「大臣許可」と各都道府県知事の「知事許可」の2種類があるのですが、
- 営業所が2以上の都道府県に所在する場合には「大臣許可」
- 一つの都道府県内にのみ所在する場合は「知事許可」
となります。
つまり、営業所の所在によって決まるもので大臣許可業者の方が技術力が高いとか信用があるというわけではありません。
解体工事業の登録
500万円未満の解体工事だけを請け負うのであれば建設業許可は不要ですが、その場合でも都道府県に「解体工事業の登録」をしなければなりません。
もともと、解体工事業は特に許可がなくても営業できたのですが、不法投棄などの問題が深刻化してきたため平成13年から解体工事業の登録制度が始まりました。
そのため、解体工事業の登録は建設業法ではなく、建設リサイクル法に基づく制度です。
登録には実務経験や資格を持つ「技術管理者」を選任する必要があり、過去2年以内に解体工事業の登録を取り消された者を役員にできないなど一定の基準があります。
無許可業者の存在
残念ながら、「建設業許可」も「解体工事業の登録」もない解体工事業者は存在します。
こうした解体工事業者の中には、解体工事で出た廃材を山中に不法投棄するなど、悪質な事業者もあります。
国土交通省が建設業者検索というサイトを設けていますので、会社名等で検索すると、その会社がどのような建設業許可を取得しているか照会できます。
また、解体工事業登録については、登録業者のリストをホームページ上で公開している都道府県も多いようです。
処分歴がないか
建設業許可がある業者については、国土交通省が過去5年間の処分歴などのネガティブ情報を公表しているので、処分歴を照会することができます。
ただし、大手ゼネコンでも行政処分を受けることが珍しくないので、処分歴があるからといって直ちに悪質業者とは断定できないので注意してください。
過去に不法投棄や杜撰な工事で事故を起こした場合には、ネット検索などでこうした報道がないか調べることもできます。
解体工事のトラブル事例をしっかりと話してくれる
解体工事では危険な作業が伴うため、多くのトラブルや事故が発生しています。
まず、解体工事ではどのような事故やトラブルが発生するおそれがあるのか確認しておきましょう。
近隣住宅の破損
住宅密集地では、建物を取り壊すときに重機が隣家に触れ損傷させる事故が発生します。また、解体作業の振動によって近隣の建物が損傷することもあります。
隣の建物と壁がくっついている「長屋」の解体工事では、特にこのような事故が多くなります。
重機や車両の事故
解体工事では重機を使用して建物を取り壊しますが、作業中にバランスを崩して重機が転倒し作業員や通行人が巻き込まれる事故が発生しています。
また、現場から建築廃材を運搬する際に交通事故が発生することもあります。
足場関連の事故
足場が風にあおられて倒壊したり、解体工事の作業員が足場から転落したりする事故も起きています。
万一、死亡事故等が発生すると、工期に遅れが出たり更地にして転売予定だった場合には売却価格にも影響が出ます。
近隣とのトラブル
解体工事によるトラブルの一番はこれです。
建物を取り壊す際、現在の技術をもってしても、一定の騒音や振動、ホコリの発生は避けられません。
金銭的な損害は通常ありませんが、近隣とは今後のお付き合いもあるため頭の痛い問題です。
保険に加入しているか。解体工事の保険とは?
起こってしまった事故やトラブルは仕方ありませんが、問題はその後の補償です。
万一、近隣や通行人等に損害を与えても、それを賠償できる資力があれば問題はありませんが、残念ながら解体工事業者には零細企業が多く、大きな金額になると負担できないおそれがあります。
ところが、保険に入っていない解体工事業者は多く存在します。
その理由の一つに、そもそも、保険会社が解体工事向け保険を取り扱っていないことが挙げられます。
一般の建設工事向けの工事保険であれば、どの保険会社も取り扱っているのですが、「解体工事は除く」という条件付きになっています。
それだけ解体工事は一般的な建設工事に比べて保険金支払いの発生リスクが高く、保険会社にとっては魅力のない分野なのでしょう。
ただし、解体工事をカバーできる保険がない代わりに「請負業者賠償責任保険」というものがあり、解体工事中の事故などによって、解体工事業者が損害賠償する義務を負うことになった場合に保険金が支払われます。
先に見たように、事故の内容によっては多額の損害賠償が必要になるため、こうした場合に備えて保険に入っているか否かが重要なポイントとなります。
解体工事の発注者が責任を問われることはないか
ところで、解体工事によって、近隣や通行人等に被害が発生した場合に、解体工事の発注者の責任が問われないか、心配に思う方も多いでしょう。この点については、民法716条に規定があります。
民法第716条
「注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文または指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。」
あなたが解体工事を注文した場合に置き換えて解説すると「解体工事業者が近隣や通行人に損害を与えたとしても注文者であるあなたは被害者に対して損害賠償する責任を負わない」ということです。
法律は、原則として注文者は責任を負わないと考えていますのでまずは一安心です。
ただし、例外的に「注文者の指図が悪かったせいで第三者に損害が生じた場合には、注文者が責任を負う」とされていますが、素人である注文者が解体作業に指図をすることはないので、ただし書きが適用されることはほとんどありません。
それでも、もし解体工事業者に支払能力がなければ、被害者は注文者であるあなたに責任を取ってもらおうと考えるはずです。
解体工事業者が保険に入っていれば、注文者が責任を問われるような事態も避けられるので、しっかりと保険に入っているかどうかも確認するようにしてください。
マニフェストを見せてもらえるか
「マニフェスト」といっても政治の話ではありません。
マニフェストとは産業廃棄物管理票のことで、解体工事で排出された廃棄物が適正に処理されたかどうか確認するために作成する伝票です。
マニフェスト伝票は、A票、B1票、B2票、C1票、C2票、D票およびE票の7枚つづりになっていて、産業廃棄物が、
解体業者→運搬業者→処分業者
へと順に流れていく過程で、各業者が押印します。
もちろん、解体工事を依頼する前には存在しない書類ですので、事前に確認することはできません。
しかし、見積もりの際に最後にマニフェストのE票(一連の関係業者がすべて押印しているため)のコピーをもらえるか、サラっと聞いてはどうでしょうか?
本当にコピーを請求するかどうかはともかく、通常はE票のコピーを注文者に渡すくらいは不都合ないはずです。
対応は丁寧か
先ほども書きましたが、解体工事のトラブルで特に難しいのが近隣クレームです。
解体作業で生じる騒音については法律や条例で一定の規制値があるのですが、その規制値内である限り近隣の方々にはとにかくご理解いただくしかありません。騒音やホコリの問題も同様です。
このような近隣対応については、本来は注文者が行うべきですが、実際には解体工事業者に任せるケースが大半です。
ところが、工事前の近隣挨拶に行ってなかったり解体工事の担当者の態度が悪くかえって炎上させてしまったりすることもあります。
また、クレーム対応を面倒がって協力してくれないということもあります。
解体工事を依頼した後では引き返せないので、見積もりや現地調査のときに担当者が丁寧に対応してくれているか様子を見て判断するようにしてください。
まとめ
これまで見てきたとおり、解体工事業者を選ぶ際には、さまざまな着目点があります。
解体工事は危険も伴い、ひとたび事故やクレームが発生すると損害賠償やクレーム対応などが必要になります。
何事もなく無事に解体工事が終わる保証はないので、万一の事態が発生したときに運命共同体として信用できる事業者であるかという視点が必要です。
少なくとも「とにかく一円でも安く」という考え方で選ぶべきではないのは覚えておいてください。