解体工事によって建物を解体すると、木材、コンクリートや金属などの建設廃棄物が大量に排出されます。
建設廃棄物を山奥に捨てたり、どこかで燃やしたりして処分できないことは分かりますが、建設廃棄物はどうやって処分されているのでしょうか。
注文者としても、建設廃棄物を処分する際に不正が行われていないか、気になるところです。
今回は、建設廃棄物の処分に関するルールの中でも特に重要な「マニフェスト」について解説します。
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目次
産業廃棄物とは?
マニフェストの解説に入る前に、建設廃棄物の処理の仕組みを理解するうえで必要な基本知識から押さえておきましょう。
- 産業廃棄物(さんぎょうはいきぶつ)
この言葉を一度は聞いたことがあるはずです。
産業廃棄物とは、その名のとおり、産業の過程で出る廃棄物のことをいいます。要するに「ゴミ」だと考えればよいでしょう。
例えば、工場が稼働するときにはさまざまなゴミが出てきますが、解体工事で出てくる廃材も建設業という産業の中で出てくるゴミなので産業廃棄物に位置づけられます。
産業廃棄物をどうやって処理するかについては「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」という法律で具体的に定められています。
ちなみに、産業廃棄物は一般的に「産廃」(さんぱい)と省略して呼ばれたりします。こちらの方が耳なじみかもしれません。
建設廃棄物の特徴
解体工事で排出される廃棄物には次のような特徴があるため、厳しい規制が必要とされるのです。
廃棄物の発生場所が一定しない。
例えば、工場で排出される産業廃棄物は、常にその工場から排出されるため場所を特定することが容易ですが、これに対し、解体工事は毎回、解体現場が変わるため行政も監視しにくいのです。
発生量が膨大である。
建物を解体すると、建物一つが丸ごと廃棄物に変わるため発生量が膨大になります。
廃棄物の種類が多様で混合状態で排出される場合が多い。
建物を解体すると、木材、コンクリート、金物、ガラスなどがごちゃ混ぜになって排出されます。
適切に分別すれば再利用できるものも多い。
例えば、金属類などは適切に分別すれば再利用できる資源です。
廃棄物を取り扱う業者が多数存在する。
これは建設業界に特有の問題ですが、工事業者は別の下請業者に工事を依頼し、さらに下請業者が孫請業者に工事を依頼するという具合に、何段階もの構造になっていることがあります。
そのため、誰がどのような責任を負うのか分かりにくい、という難点があるのです。
不法投棄の問題
解体工事によって大量に排出される建設廃棄物ですが、大量であるゆえにその分だけ処分費用もかさみます。
そうすると「どこかにこっそり捨ててしまおうか」という不届きな解体工事業者も出てくるわけです。
「山林で不法投棄された大量の産業廃棄物が見つかった」というニュースを何度か見たことがあるでしょう。
残念ながら、解体工事業者によるこうした不正は後を絶ちません。不法投棄の犯行動機は、たいてい「処分費用を浮かせたかった」というものです。
解体工事業の事業を行うためには、本来、都道府県の登録が必要なのです。
こうした不法投棄は、登録されていない事業者の犯行が多いので、解体工事を依頼しようとしている業者が登録されているか事前に確認しておきましょう。
マニフェスト(産業廃棄物管理票)とは?
そこで、建設廃棄物の違法な処分を防止するために存在するのが「マニフェスト」です。
マニフェストというと、最近では政治家の「選挙公約」のことを言いますが、あれとは別ものです。
マニフェストは、日本語では「産業廃棄物管理票」といい、廃棄物の処理が適正に実施されたかどうか確認するために作成する書類です。
産業廃棄物の排出事業者(解体工事業者のこと)には、マニフェストを作成する義務が課せられています。
マニフェストの仕組み
解体工事業者は、解体現場で排出される建設廃棄物を自社では処理できないので、通常、産業廃棄物の処理を別の業者に委託します。
このときに
- 産業廃棄物の名称
- 数量
- 運搬業者名
- 処分業者名
などを記入した書類を作成します。これがマニフェストです。
このマニフェストによって、解体現場で出た産業廃棄物が、誰の手に渡り、どのように処理されていったか、という流れを把握・管理できです。
つまり、マニフェストがあることによって、産業廃棄物の所在が常に明らかにできるため、不法投棄を防止できるわけです。
マニフェスト制度は、1997年に廃棄物処理法の改正によって制定され、1998年12月から施行されています。
マニフェストには何が書かれている?
先ほど、書類を作って産業廃棄物の流れを管理する、と説明しましたが、具体的には「マニフェスト票」と呼ばれる7枚つづりの伝票を使用しています。
なお、現在は
- 複写式の紙伝票を利用する「紙マニフェスト」
- パソコンを使って情報登録する「電子マニフェスト」
があり、どちらを利用しても構いません。
ここでは紙マニフェストについて解説します。
7枚つづりの伝票
7枚つづりの伝票には、A票、B1票、B2票、C1票、C2票、D票、E票という名前がついています。
それぞれの伝票の役割について解説しておきましょう。
A票は排出事業者の控え
これは排出事業者の控えです。要するに解体工事業者の控えとなるものです。
B1票は運搬が終わった後に運搬業者の控え
解体工事業者は、建設廃棄物を運搬業者に委託して、処分業者のところまで運搬してもらいます。B1票は、運搬が終わった後に運搬業者の控えとなるものです。
B2票は運搬終了を確認するための伝票
解体現場から処分業者のところまで運搬してもらった後に、運搬業者から解体工事業者に返送されます。
これは、解体工事業者が運搬終了を確認するための伝票です。
C1票は処分業者の控えとなる伝票
建設廃棄物の処分が終わった後に、処分業者の控えとなる伝票です。
C2票は運搬業者が建設廃棄物の処分が終了したことを確認するための伝票
建設廃棄物の処分が終わった後に、処分業者から運搬業者に返送されます。
運搬業者が建設廃棄物の処分が終了したことを確認するための伝票です。
D票は解体工事業者が建設廃棄物の処分が終了したことを確認するための伝票
建設廃棄物の処分が終了した後、処分業者から解体工事業者に返送されます。
解体工事業者が建設廃棄物の処分が終了したことを確認するための伝票です。
E票は解体工事業者が最終的な処分の終了を確認するための伝票
最終的に建設廃棄物の処分が終了した後、処分業者から解体工事業者に返送されます。
解体工事業者が最終的な処分の終了を確認するための伝票です。
誰がどの伝票を保管するか
最後に、誰がどの伝票を保管することになるのか整理しておきましょう。
業者 | 伝票 |
---|---|
解体工事業者 | A票、B2票、D票、E票 |
運搬業者 | B1票、C2票 |
処理業者 | C1票 |
解体工事業者の手元にはA票、B2票、D票、E票が戻ってきます。
運搬業者はB1票とC2票を保管します。
処理業者はC1票を保管します。
「最終処分場」で処分しなければならないものがある場合は、中間処理業者が排出業者となって新たにマニフェストを交付します。
少し専門的な話になりますが、廃棄物の処分には
- 中間処分
- 最終処分
という分類があります。
分かりやすく説明すると
- 建設廃棄物を焼却するのが「中間処分」
- そして焼却後の灰などを埋め立てるのが「最終処分」
と考えてください。
このように、産業廃棄物の処分に関わった業者が、それぞれ伝票を保管することになるため、途中で不正な処分ができないようになっているのです。
マニフェストの保存期限
「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」によって、マニフェストは5年間の保存が義務付けられています。
なお、5年間の起算点ですが
- 排出業者
- 運搬業者
- 処分業者
がそれぞれの伝票の送付を受けた日や送付した日を基準としています。
罰則はどうなっている?
「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」にはちゃんと罰則もあります。
解体工事業者がマニフェストの作成・交付に関して、次のような違反行為があった場合には、
- マニフェストを交付しなかった
- マニフェストに必要事項を記入しなかった
- マニフェストに虚偽の記載をした
- マニフェストの保存義務を違反した
6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
注文者はマニフェストをチェックできる?
解体工事の注文者としては、解体工事で排出された建設廃棄物が適切に処理されているか気になるところです。
しかし、すでに説明したとおり、解体工事の注文者はマニフェストの保管者には含まれていません。
それでは、解体工事の注文者は、建設廃棄物がどのように処分されたか知ることはできないのでしょうか。
もっとも簡単な方法は、解体工事業者にE票を見せてもらうことです。
E票は、すべての処理が適切に行われた結果として解体工事業者の手もとに戻ってくるので、E票さえ確認できればOKです。
問題は、解体工事業者に見せてくれるよう請求する権限まではない、ということです。
ただ、マニフェストのE票は、注文者に絶対に見せられないような書類ではありません。
解体工事業者には、前もってマニフェスト伝票を見せてもらえるか、または写しをもらえるか聞いてみて、これを断るような解体工事業者に依頼するのは見送った方がよいでしょう。
中にはマニフェストの記載内容を改ざんする悪徳業者もいますが、疑い始めればキリがないのでこのあたりにしておきます。
解体工事の注文者は責任を問われる?
解体工事業者が無登録で解体工事を行った場合、マニフェストの作成・交付で不正があった場合、建設廃棄物を不法投棄した場合など、解体工事業者が処罰を受けるのは当然ですが、注文者はどのような責任を負うのでしょうか。
建設リサイクル法
建設リサイクル法では、解体工事の注文者が解体工事前に届出をしなかった場合や虚偽の届け出をした場合の罰則が定められています。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律
こちらは廃棄物処理について定めた法律です。
つまり、解体工事業者が解体工事によって排出された建設廃棄物をどう処理するか、というところが出発点ですので、解体工事の注文者は規制の対象ではありません。
マニフェストが解体工事の注文者に交付されないのはこのためです。
したがって、仮にマニフェストの作成・交付に関して不正が行われたとしても、解体工事の注文者に罰則はないのです。一部に施主も処罰されるという噂もありますが、これはデマです。
まとめ
マニフェストは、解体工事で排出される建設廃棄物が適切に処理されたかどうかが分かる重要な証拠です。
解体工事業者に依頼するときには、解体工事が終わったらマニュフェストを見せてもらえるか、事前に問い合わせて確認してみましょう。