個人で不動産の売買契約書を交わす場合、不動産業者が入っていないので、自分で売買契約書を用意しなりません。

売買契約書には法律用語がびっしり並んでいるので不安に感じるかもしれませんが、たくさんの条文の中で、きちんと意味を押さえておくべき重要な条文は限られています。

そこで、不動産売買契約書には何が書かれているのか、専門的な知識を分かりやすくコンパクトに解説します。

個人契約のメリットとデメリット

まず個人間で不動産を取引する場合のメリットとデメリットを確認しておきましょう。

メリット

不動産業者を挟まないので仲介手数料がかからないという点が最大のメリットです。

不動産取引の全体からみれば、個人間で直接、不動産を売買するケースは少ないですが、個人契約であっても売買は有効です。

デメリット

一方で、デメリットも少なくありません。

不動産取引の専門家である不動産業者が関与しないため、売買契約書の作成や不動産登記などもすべて当事者で手配しなければなりません。

また、不動産業者が仲介する場合には、取引する不動産に関し「重要事項説明書」が作成されますが、個人間の場合には作成されません。

そのため、銀行で住宅ローンを組んで購入する場合などには、重要事項説明書がないため、住宅ローンの手続き上、不都合が生じます。

したがって、不動産の売買を個人で行うのは、現金で売買される場合で、かつ、売主と買主間の信頼関係がある場合に限られるでしょう。

どんな売買契約書を使えばいいか

不動産の売買契約書には、法律で決まった書式は存在しません

そのため、どの不動産業者も自分たちが加盟している業界団体(不動産業界には複数の業界団体があります)の推奨する書式を使用しており、どの書式も記載内容はそれほど大きく変わりません。

不動産会社や不動産業界団体が公表している書式であれば、ネット上で見つけたものでも特に不都合はないです。

押さえておくべき重要な5つの条文

不動産の売買は高額な契約ですので、ひとたびトラブルになると、トラブルに絡む金額も高額となります。

つまり、大きな金額が絡む条文ほど重要度が高いといえるのです。

そこで、不動産売買契約書の中で、特に重要度が高いと思われる条文を5つ取り上げて解説します。

1.手付金に関する条文

例文
  1. 買主は、この契約の締結と同時に手付金として金○円を売主に支払う。
  2. 前項の手付金には、利息を付さない。
  3. 売主は、買主に受領済の手付金の倍額を支払い、また、買主は、売主に支払済の手付金を放棄してこの契約を解除することができる。

買主は、契約締結時に売買代金の5~10%程度の手付金を支払うのが一般的です。

手付金は、最終的に売買代金に充当されるので、要するに売買代金の一部を前払いすると考えればよいでしょう。しかし、手付金は、単なる前払い金ではなく、「手付解除」のときに重要な意義を持ちます。

手付解除とは、契約書に定めた手付解除期日までであれば、売主も買主も、特に理由なく自由に契約を解除できる、という制度です。

解除の理由は何でもいいので、「やっぱり気が変わった」という無責任な理由で解除することも可能です。

ただし、買主が手付解除する場合には、手付金を放棄しなければなりません。つまり、売主に支払った手付金が返ってこない、というペナルティが発生します。

一方、売主も手付解除できますが、売主が手付解除する場合は、「手付金の倍額」を支払わなければなりません。

例えば、手付金が100万円だった場合には、売主が手付解除するには200万円を返金することになります。

ただし、手付解除がいつまでもできると契約関係が不安定になるので、手付解除できるのは、契約書で定めた期限までです。

2. 所有権の移転に関する条文

例文
  1. 本物件の所有権は、売買代金全額を支払った時に、売主から買主に移転する。
  2. 売主は、売買代金全額の受領と引き換えに、本物件の所有権移転登記に必要な一切の書類を買主に交付する。

売買契約を交わした時点では、通常、手付金が支払われるだけです。

実際に残代金が支払われるのは、契約締結から1~2ヶ月くらい先です。

そのため、一般的に不動産売買契約書では「残代金が全額支払われたときに、所有権が買主に移転する」という取り決めになっています。

わざわざ契約書に書くまでもないと感じるかもしれませんが、実は、「売買契約を締結したときに所有権が移転する」というのが法律上の原則なのです。

しかし、法律の原則どおりだと、売主は代金を一部しかもらってないのに不動産の所有権を失い、買主は代金を一部しか支払ってないのに所有権を得ることになってしまいます。

そこで、「残代金を支払ったときに所有権が移転する」と定めているのです。

3. 引渡し前の滅失(めっしつ)・毀損(きそん)に関する条文

例文

例文

本物件の引き渡し前に、天災地変その他売主または買主のいずれの責めにも帰すことのできない事由によって本物件が滅失・毀損したときは、買主は、この契約を解除できる。

ただし、修復が可能なときは、売主は本物件を修復して買主に引き渡す。

もし、不動産の引渡しまでに災害などで不動産が滅失・毀損した場合にどうするか、という取り決めです。

法律上は「危険負担」と呼ぶため、「危険負担」という見出しがついている契約書もあります。

先ほど「所有権の移転」で説明したように、通常は、売買契約を交わした日から不動産の引渡しまで時間がかなり空きます。

例えば、引渡し日までに大地震が発生し、土地の沈下や地割れで土地が使えなくなった場合や、建物が倒壊した場合、買主としては使えない土地や建物を買っても仕方ないので、売買契約を解除したいと考えるはずです。

災害などのように、売主・買主どちらの責任でもない場合には、買主は売買契約を解除できる、と定められています。

4. 瑕疵担保責任に関する条文

例文
  1. 買主は、本物件に隠れた瑕疵があり、この契約を締結した目的が達せられない場合は契約の解除を、その他の場合は損害賠償を売主に対して請求できる。
  2. 本条による契約解除、または損害賠償の請求もしくは修補の請求は、本物件の引き渡し後2年を経過したときはできない。

瑕疵は「かし」と読み、キズや欠陥という意味です。

不動産を売買した時点では、一見して分からない欠陥が後から見つかった場合、買主は、売主に対して損害賠償や契約解除を請求できます。

買主としては、「この価格であれば通常これくらいの品質・性能があるはずだ」と信頼して買うわけですから、その信頼を裏切るようなものを売ったのであれば、売主が責任を負うべきだ、という考えです。

引渡しから一定期間内に瑕疵が見つかった場合、買主は、売主に対して「損害賠償」や「契約解除」を請求できます。

売主が瑕疵の存在を知っていたかどうかに関係なく、問答無用で法的責任が発生するので、売主にとっては負担の重い責任です。

ただし、売主が個人の場合に、2年間も瑕疵担保責任を負うのは負担が重すぎます

そこで、次のような特約を入れて、売主の瑕疵担保責任を免除することができます。

「売主は第○条にかかわらず、本物件の隠れたる瑕疵につき一切の担保責任を負いません。」

また、瑕疵担保責任を免除することはできない場合でも、次のような特約を入れて、瑕疵担保期間を3~6ヶ月程度に縮めることがあります。

「第○条に定める本物件の瑕疵担保責任について、引渡しから○ヶ月と読み替えます。」

5. 契約違反による解除に関する条文

例文
  1. 売主または買主がこの契約に定める債務を履行しないとき、その相手方は、自己の債務の履行を提供し、かつ、相当の期間を定めて催告したうえ、この契約を解除できる。
  2. 前項の契約解除に伴う損害賠償は、違約金として売買代金の20%相当額とする。

 売買契約書には、残代金の支払い日を明記しています。なので、買主が支払い日までに残代金を支払わなければ契約違反になります

また、売買契約書には土地に引渡し日を明記しています。売主が引渡し予定日に土地を引き渡さなければ、これも契約違反になります。

このように、売買契約書に記載している内容を守らない場合は、原則として契約違反です。

売主・買主は、相手方が契約に違反した場合には、契約を解除できます。

そして、売買契約を解除した場合に、契約解除によって生じた損害を請求できます。

とはいえ、単に「損害賠償を請求できる」と書いても、実際にいくら損害が発生したかをめぐってさらに争いが拡大してしまいます。

そこで、不動産売買契約書では、契約違反があった場合に賠償する金額をあらかじめ定めています。

これが「違約金」です。

違約金は、売買代金の20%程度とするのが一般的です。

契約書の読み方

契約書は抽象的で専門的な用語が多いため、あてもなく契約書に目を通しても、文字が流れていくだけで頭の中には入ってきません。

そこで、契約書の流れを時系列でとらえ、具体的にイメージしながら読むのがコツです。

例えば、契約書は「契約の一生」を表したものだと考えればよいでしょう。

つまり、契約が成立してから、目的を達成して終了するまでの流れを書いたものと捉えるのです。

また、契約書の条文は、あらゆる出来事に対応できるようにわざと抽象的に書かれています。

なぜなら、現実に起こるかどうかも分からないことを想定して、契約書に盛り込んでいくと、契約書が何十ページあっても足りないからです

契約書の性質を理解して、自分を売主や買主に置き換えながら読んでみましょう。

個人間の売買でも印紙は必要

印紙税法は「課税文書の作成者は印紙税を収める義務がある」と定めているだけで、契約書の作成者が事業者である場合と個人である場合を区別していません。

個人間の不動産売買契約であっても、契約書には収入印紙を貼付する義務があるので注意してください。

まとめ

ここで説明した5つの条文

  • 手付金
  • 所有権の移転
  • 引渡し前の滅失・毀損
  • 瑕疵担保責任
  • 契約違反による解除

が重要度の高い条文です。

それ以外の条文は実務上もあまり問題にはならないので、さっと目を通せば十分です。安心して個人での売買契約に挑戦してください。