不動産の売却や購入は、ネットオークションでいらなくなったアイテムを売ったり、スーパーやコンビニで何かを買うのとはわけが違います。
実際に売買には多額のお金が動くことになりますし、複雑な法律が絡み合うため、通常は不動産会社をはじめとする様々な第三者を巻き込んで行われるのです。
そのため、不動産の売買には様々な手続きが必要になってきますが、所有権移転登記も重要な手続きの1つです。
一般的には不動産会社を通して売り手と買い手の間で売買契約を締結しますが、その際にはその不動産の名義を変更するための所有権移転登記が必要になってきます。
しかし、その登記手続きや司法書士に支払う手数料などもかかるため、できるだけ節約したいと考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、不動産売買の登記である所有権移転登記の重要性や必要な費用、自分で登記ができるのか、ということなどを紹介させていただきます。
目次
所有権移転登記に必要な書類一覧
所有権を移転するということは
- 元々その所有権を持っている方
- その所有権を受け取る方
が存在し、その両者の間で権利を移転するということです。
不動産売買の場合は、売り手から買い手に対して所有権が移ることになるため、それぞれが書類を用意する必要があります。
売り手が用意すべき書類
不動産を売却するにあたって売り手が用意する書類は
- 登記済証または登記識別情報
- 印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
- 登記事項証明書
- 身分証明書
- 印鑑
などになります。
登記済証または登記識別情報の原本
登記済証とは、一般的に権利証などと呼ばれることの多い不動産の重要書類になります。
例えば、売り手が現在の不動産を購入した際に、元の所有者から所有権移転登記を受けた際に発行されているはずです。
また、2,005年以降は不動産登記法が改正されたため、権利済証に代わって登記識別情報が発行されるようになりました。
登記識別情報とは、数字や符号などを12桁組み合わせたパスワードのようなものになります。
通常は登記識別情報通知書と呼ばれる原本がなくても、所有権の移転登記を行うことが可能です。
しかし、通常は所有権移転登記は司法書士を通して行われますが、その際には登記識別情報通知書の原本が必要になるケースが多いです。
印鑑証明書は発行から3ヶ月以内のもの
所有権移転登記をする際には、通常は売り手の印鑑証明書の添付が必要になってきます。
中には、昔取得した印鑑証明書があるからそれを使えると考える方もいらっしゃいますが、原則発行から3ヵ月以内のものしか認められません。
同様に、現在はコンビニエンスストアなどでも印鑑証明書を簡単に発行することが可能です。
しかし、所有権移転登記に利用できるのは市区町村の役所が発行する正式なものに限られるため注意しましょう。
登録免許税の計算をする際に必要な固定資産評価証明書
正式に言えば、不動産の登記に必ず必要な書類というわけではありません。
しかし、いずれにしても登録免許税の計算をする際には提出が必要になってくる書類になります。
こちらは、代わりに市区町村から送られてくる納税通知書の課税明細書のコピーで代用できるケースもあります。
法人の場合は登記事項証明書も必要
不動産を売却するのが法人の場合は、法務省発行の登記事項証明書が必要になってきます。
こちらも印鑑証明書と同じく発行から3ヵ月以内のものが求められますが、基本的には
- 代表者事項証明書
- 現在事項証明書
- 履歴事項証明書
のいずれの書類でも可能です。
身分証明書
- 運転免許証
- 健康保険証
- パスポート
などの一般的な身分を証明する書類が必要ですが、一般的には運転免許証が利用されることが多いです。
買い手が用意すべき書類
不動産を購入する側も、同様にそろえなければならない書類があります。
具体的には、
- 住民票
- 戸籍の付票
- 身分証明書
- 印鑑
などが必要です。
住民票は原則市町村が発行するもの
買い手が自分の住所を証明するための書類として、住民票の写しの提出が必要になってきます。
自治体の中には、コンビニエンスストアでも住民票が発行できるようなところも存在しますが、原則市区町村の役所が発行するものを利用します。
戸籍の付票は本籍地のみ取得が可能
住所を証明することができればよいため、住民票の代わりに市区町村の役所が発行する戸籍の付票を利用してもかまいません。
ただし、戸籍の付票は現在お住まいの住所地ではなく、本籍地でのみの取得が可能となるため注意しましょう。
身分証明書
こちらは売り手が用意するものと同じく
- 運転免許証
- 健康保険証
- パスポート
などが利用可能です。
その他の必要書類
所有権移転登記は、通常は司法書士に行ってもらうことが多いです。
また、自分たちで行う場合も別途必要になる書類が存在します。
そのため、売り手と買い手がそれぞれ用意する書類だけではなく、それ以外にも以下の書類が必要です。
- 委任状
- 登記原因証明情報
委任状
司法書士を利用すれば、基本的には司法書士の方で用意する書類になるため売り手や買い手が事前に作成する必要はないはずです。
自分たちで登記の手続きを行うのではなく、司法書士にその手続きを委任するという証明の書類です。
委任状には、売り手と買い手の双方の署名や捺印が必要になりますが、通常は立ち合いの際にサインすることになります。
なお、その際に売り手は実印が必要になってくるため忘れないように持って行きましょう。
登記原因証明情報
- 登記の原因となった事実
- 契約等の法律的な行為
- 権利に変動が生じた
ということを証明する書類が登記原因証明です。
例えば、不動産を売買する際に作成する売買契約書を登記原因証明として提出することも可能です。
また、売買契約に起因して所有権が移転したという書面を新たに作ることもできます。
こちらも司法書士を利用した場合は、基本的には司法書士の方で作成する書類になるため気にする必要はありません。
どちらも司法書士を利用すれば用意してくれるものですが、なぜ必要なのかを覚えておくのもおすすめです。
所有権移転登記を自分で行うことは可能だができないケースもある
所有権を移転するための登記には、様々な書類が必要だということがお分かりいただけたと思います。
それでは、その登記を自分たちで行うことは可能なのでしょうか。
場合によっては、所有権移転登記は自分で行うことが可能ですが、できないケースも存在します。
自分でできるケース
例えば、不動産をローンを通さずに一括で購入した場合、金融機関が関わることがないため抵当権の設定登記をする必要がありません。
抵当権設定登記と言うのは、不動産を購入する際などに銀行などから一時的に借りたお金に対する担保の登記のことに。
もちろん登記はするべきですが、金融機関が関わらないためたとえ自分で行ったとしても、それに対して他人が口を挟むことはできません。
そのため、不動産を現金で一括購入するのであれば自分で所有権移転登記を行うことが可能です。
同様に、親子間や友人同士で不動産の売買を行うケースの中には、簡単な約束でお金を返済していくというような取り決めが行われることもあります。
この場合も第三者に知られることなく売買契約ができるため、自分たちで登記手続きを行うことが可能です。
自分でできないケース
絶対にできないというわけではありませんが、反対に金融機関に融資をしてもらって不動産を購入する場合は、自分でできないことも多いです。
金融機関としても、登記を完了していないとローンが滞った場合にその回収が難しくなる恐れがあるため、通常は銀行が司法書士に依頼します。
ただし、確実にローンを返済することができるといった社会的な信用があるのであれば、自己登記をする前提でローンを組むことも可能です。
所有権移転登記を自分で行うメリットとリスク
所有権移転登記は自分で行うことでメリットを得ることもできますが、反対にリスクとなる部分もあるため注意が必要です。
自己登記のメリットは手数料を節約できること
メリットとしては、やはり専門家に頼んだ際に発生する手数料を節約できるという点が挙げられます。
むしろそれ以外のメリットはほとんどないため、基本的には少しでも手続きを安くしたいという方がご自身で所有権移転登記を行うことになります。
ただし、後程詳しく紹介させていただきますが、所有権移転登記で司法書士に支払う報酬は、不動産の購入価格と比べるとそんなに高いものではありません。
もちろん自分で簡単にできるという場合は問題ありませんが、できる限り専門家に頼むことをおすすめいたします。
所有権移転登記を自分で行うリスク
自分で登記を行うのもよいのですが、それによって生じるリスクとして
- 手続きが停滞してしまう
- 他人に先に申請されてしまう
などが挙げられます。
普段から所有権移転登記を行っているというような方はほとんどいないはずですので、単純にやり方がわからないという方が多いです。
登記の方法を調べるのにも時間がかかりますし、仮に調べた方法で登記を行ったとしてもうまくいかないというようなケースも少なくありません。
もちろん間違えてもやり直しは効きますが、専門家に任せればすぐに終わる登記が自分でやることでかなりの時間を要してしまう可能性があるのです。
最終的には面倒になって登記自体を放棄してしまうような方もいらっしゃいますが、それをすると更なるリスクが発生します。
それについては後述させていただきますが、不動産を購入したら必ず所有権移転登記はしておくべきです。
自分でやるよりもプロに任せた方がいいことはプロに任せましょう。後々のトラブルなどもなくなりますので。
不動産売買の所有権移転登記にかかる費用の相場
それでは、所有権を移転するためにはどれくらいの費用が必要になってくるのでしょうか。
所有権移転登記のコストは大きく
- 登録免許税
- 手数料
の2つに分けることができます。
手数料と言うのは、司法書士などの専門家に支払う報酬のことです。
登録免許税は売買した金額の20/1000
所有権移転登記を行う場合は、必ず登録免許税を支払わなければなりません。
これは司法書士に頼んだとしても自分で行ったとしても同じ基準でかかってくるコストになります。
不動産の売買によって所有権が移転する場合の税率は20/1000と決まっています。
相続による所有権移転登記の登録免許税が4/1000になるため勘違いされる方もいらっしゃいますが、売買の場合は20/1000です。
例えば、2000万円の土地の売買の場合は
となるため、登録免許税は40万円ということになります。
手数料は4万円前後が平均
中には弁護士を利用される方もいるかもしれませんが、通常登記をする際には司法書士を使うことになります。
基本的に司法書士が設定する報酬は自由なため、司法書士ごとでバラバラに決められています。
しかし結論を言うと、一般的な司法書士であれば所有権移転登記の報酬を4万円前後で設定しているところが多いようです。
自分で行えばこの価格を節約することもできますが、先ほども述べたようにリスクも大きいため、それであれば専門家にお願いしたほうが良いのかもしれません。
料金の計算方法。実際のシュミレーション
それでは実際に、不動産の所有権移転登記にかかる料金を計算してみましょう。
例えば3500万円の一戸建てを購入した場合でシミュレーションをしてみます。
- 登録免許税:35,000,000×20/1000=70万円
- 報酬:4万円程度
合計で74万円程度が必要になってくるということになります。
高いと感じる方も多いかもしれませんが、大半を占める登録免許税は自分でやっても司法書士がやっても変わりません。
そのため、デメリットを考えると司法書士にお願いすることをおすすめいたします。
登記を必ずしておくべき3つの理由
確かに登録免許税が高いため、中には登記をせずにその費用を浮かせようと考える方がいるのも事実です。
しかし、不動産の登記は必ずやっておいたほうが良いですし、やらないことで以下のようなデメリットが発生します。
- 自分が所有者だと主張できない
- 他人に先に登記される恐れがある
- 相続時に発生するトラブル
自分が所有者だと主張できない
不動産の登記を行うことで、その登記をした家や土地などが自分のものだと他人に主張することが可能になります。
反対に言えば、実際に自分がお金を払って購入した不動産であったとしても、登記をしていないければ第三者にそれを主張することができません。
これを法律的に第三者対抗要件と呼んでいますが、要するに登記をして初めて自分のものだと客観的に認められるということです。
仮に購入をしてから所有権移転登記をしなかったとしても、普通に生活をする分には全く関係のないことかもしれません。
しかし、土地や建物に関する法律的なトラブルが生じた際には、登記をしていないことで不利になることがあるため注意が必要です。
他人に先に登記される恐れがある
売り手と買い手が明確になっている場合、第三者に先に登記をされるというようなことが発生することはないかもしれません。
しかし、その第三者が金融機関であり、差し押さえなどの可能性がある場合は、実際に登記をしないことで大きなトラブルに発展します。
また、売り手が買い手に不動産を売却した後、買い手が登記をしていないのをいいことに、再度他人に同じ不動産を売却することもできます。
先に買った方からすると、自分が購入したはずの不動産を売り手が他の人に売却できるわけがないと考えます。
しかし、所有権移転登記を完了していない以上、その不動産の所有者は法律的にはまだ売り手にあるということになります。
そのため、売り手は所有権を持っているうちに他の方に再度同じ不動産を売却することが可能となるのです。
この場合、自分よりも後に購入した方が登記を先に済ませてしまえば、法律的には新しい所有者は後から購入した方ということになります。
もちろん売り手に大きな問題がありますが、後から購入した方は法律にのっとって登記をしているため、当然法律で保護してあげなければなりません。
一方で先に購入した方は、購入が先でも登記を済ませていない以上、落ち度があるとみなされるため、法律では保護されないのです。
例えば友人間で不動産を簡易的に売買する場合、所有権移転登記をしないケースもあるため注意が必要です。
相続時に発生するトラブル
所有権移転登記をきちんと行っておかないと、相続をする際に非常に面倒なトラブルに巻き込まれる可能性が高いです。
例えば登記を怠ったまま不動産の売り手が亡くなった場合、その売り手の相続人が名義を所得することになります。
中には、自分の親の所有物だと思っていた家や土地を、その不動産を買い取った方が亡くなった際に取られてしまうというようなケースもあります。
相続に関するトラブルは、購入後すぐに登記をしなくても即座に発生する問題ではないかもしれません。
しかし、登記されないまま放置され続けると、相続時にご自身の子供や元々の所有者の子供や親族など、多くの方に迷惑をかけることになります。
当の売買を行った本人がいなくなった後も迷惑をかける可能性が高いため、早めに行っておくことをおすすめいたします。
まとめ:登記は司法書士にできるだけ早く依頼しよう
普通の方法で不動産の売買を行うのであれば、通常は所有権移転登記の話が持ち上がるはずですし、問題なく登記も完了するはずです。
しかし、個人間で不動産売買をする場合は、所有権移転登記に関する知識がなかったり、知識があってもやるのが面倒で後回しにされるというケースもあります。
もちろん早めのタイミングで行えば全く問題はないのですが、ずっと放置されている場合は後々大きなトラブルを引き起こす可能性が高いです。
所有権移転登記は自分たちで行うこともできますが、やはり早く、そして安全に行うためにも司法書士などの専門家にお願いしたほうが良いでしょう。
登記には大金が必要だというイメージもありますが、実際に高いのは登録免許税であり、それと比べると支払う報酬は微々たるものです。
少額でも節約したいというのであれば話は別ですが、スムーズに不動産売買を進めるためにも司法書士に依頼することをおすすめいたします。