近年は、海外で活躍する日本人も増えてきておりますし、海外でも気軽に仕事ができる環境が整っています。
原則として、日本に住所がなく海外在住が連続して1年以上となる場合、日本人であったとしても非居住者とみなされます。
そのような方でも日本国内に不動産を所有しているのは珍しいことではなく、またその不動産を売却したいと考える方もたくさんいらっしゃいます。
結論から言うと、 海外在住の日本人であっても海外から日本国内の不動産を売りに出すことは可能です。
しかし、やはり日本国内にいる不動産の所有者と比べると、その手続きが若干面倒だと感じるでしょう。
この記事では、海外に住まわれている方が日本の家を売るための方法を紹介させていただきます。
海外在住での日本とのやり取りと不動を売る方法
最初に、海外から不動産をどのように売るべきなのかという概要をお伝えさせていただきます。
海外に住んでいるということがネックになるため、不動産会社をうまく探す必要があります。
理解してくれる不動産会社を探す
不動産を売却する際には、日本にいる時と同じように不動産会社を利用することが多いですが、やはり海外にいるとその不動産会社を探すのが非常に大変です。
日本にいる不動産の所有者の多くは、何度か不動産会社に足を運んだり、またはどこかで直接会ったりして売却に関する話を詰めていくことになります。
しかし、海外にいる場合は不動産会社と頻繁に会うことはできないため、そのことを理解してくれる不動産会社を探さなければならないのです。
日常的なやり取り
不動産会社とのやり取りは、
- 国際電話
- Eメール
- スカイプ
- チャットワーク
- ライン
のうちのいずれかをメインに行うことになるはずです。
最近は、ラインであれば文章のやり取りも通話も可能なため、ネット環境があるのであればラインを使う方が多いようです。
書類の受け渡しにはお金がかかる
不動産を売却する際には、当然契約書などの書類が必要になってきますが、そういった書類は、さすがにスマホで写真に収めてラインで送るわけにはいかず、原本が必要になってきます。
大変重要な書類になるので、紛失のリスクを避けるために追跡可能な郵送方法を使ったりする必要があり、その場合は郵送に多額の費用が必要になることもあります。
何度も書類をやり取りしていると、やり取りだけでかなりの支出になってしまうため、まずは写真で書類を送って不備がないかを確認してもらい、問題なければ郵送するという方法を取ることをおすすめいたします。
不動産は素早く売るべき
特に人気のない不動産は、なかなか購入希望者があらわれないため売却までに時間がかかるイメージがあります。
しかし、海外にいながら日本とのやり取りを長期的に行うのはあまり得策ではありません。
そんなときには、不動産に買い取ってもらうという方法も視野に入れておきましょう。
不動産の売却方法は2つある
不動産会社を利用した不動産の売却には
- 仲介
- 売却
の2つに分けられます。
仲介は不動産会社が入り不動産を売る方法
不動産会社が仲介することによって不動産を売る方法。
内覧などの人の手が必要なところも不動産会社がフォローしてくれるため、海外にいながら不動産を売却することが可能。
売却とは不動産会社に買い取ってもらう方法
不動産会社に不動産を買い取ってもらう。
仲介で売却するよりも売値が安くなる傾向にあるが、購入希望者を気長に待つ必要がないためすぐに売却することが可能。
どちらにもメリットがありデメリットがありますが、やはり高額での売却を希望するのであれば、仲介を選ぶことになります。
ただし、海外に在住しているのであれば仲介よりも売却の方が良いかもしれません。
海外在住者が売却を選ぶ理由
海外にいるということを加味すれば、必ず現れるとは限らない購入希望者を遠くの地から待ち続けるよりも、不動産会社にすぐに買い取りをしてもらった方がメリットが大きいと考えることもできます。
また、仲介で仮に購入希望者が現れて無事に売却が完了したとしても、売却した物件に何か欠陥が見つかった場合は、瑕疵担保責任によって施主がその補修代金などを補償しなければなりません。
お金を払うだけならいいと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、海外にいることによってそれらのやり取りにわずらわしさを感じることがあるため、瑕疵担保責任がない不動産会社への売却を選択される方が多いのです。
ただし、やはり少しでも高く売りたいと思われるのであれば、仲介を選ぶのも方法の1つです。
海外在住で日本の家の売却に必要な書類
日本にいる日本人が不動産を売却する際にも、様々な書類が必要です。
日本に住所のない日本人は、それ以外に
- 在留証明書
- 署名証明書
の2つの書類を集める必要があります。
ここで気を付けないければいけないのが、ご自身が本当に海外居住者となっているのかという点です。
例え海外に10年住んでいたとしても、日本に住民票がある場合は海外居住者とは扱われないため、その場合は日本に帰ってきて不動産を売却する必要があります。
海外に行く前に住民票を抜いたかどうかを思い出し、海外居住者扱いになっているのであれば上記の2つの書類を集めることになります。
在留証明書とは海外居住者用の住民票
在留証明書とは、いわば海外居住者用の住民票のようなものです。
日本にいる方は不動産の売却に住民票を用いますが、住民票を抜いている方はそれができないため、現在いる国の住所を証明するための書類が在留証明書ということになります。
長期的に海外にお住まいの方であればご存じのはずですが、在留証明書は仕事などで同じ国に3か月以上滞在する際に、その国の大使館に在留届を提出することになります。
在留証明書の取得方法
在留証明書の発給条件は以下の通りです。
- 日本国籍を有する方(二重国籍を含む。)のみ申請ができます。従って、既に日本国籍を離脱された方や喪失された方、日系人を含む外国籍者は発給の対象外です。
- 現地にすでに3ヶ月以上滞在し、現在居住していること。但し,申請時に滞在期間が3ヶ月未満であっても,今後3ヶ月以上の滞在が見込まれる場合には発給の対象となります。
- 証明を必要とする本人(注)が公館へ出向いて申請することが必要です。ただし,本人が公館に来ることができないやむを得ない事情がある場合は,委任状をもって代理申請を行うことができる場合もありますが,具体的には事前に当該在外公館にご相談下さい。
- (注1)既に日本国籍を離脱・喪失された方に対しては,例外的な措置として「居住証明」で対応する場合があります。発給条件,必要書類等は証明を受けようとする在外公館に直接お問い合わせください。
(注2)本人申請が原則です。在留証明は上述のとおり,遺産分割協議や不動産登記,その他申請される方にとって重要な用途に使用されるため,在外公館で申請する方の意思と提出先機関の確認を行うと同時に本人の生存確認を行わせて頂いています。参考:外務省 在外公館における証明-在留証明
在留証明書の取得に必要な書類は以下の通りです。
- 日本国籍を有していること及び本人確認ができる書類(有効な日本国旅券等)
- 住所を確認できる文書(例:現地の官公署が発行する滞在許可証,運転免許証,納税証明書,あるいは公共料金の請求書等に住所の記載がある,現地の警察が発行した居住証明等)
- 滞在開始時期(期間)を確認できるもの。また,滞在期間が3ヶ月未満の場合は,今後3ヶ月以上の滞在が確認できるもの(賃貸契約書、公共料金の請求書等)。
- 証明書上の「本籍地」欄に都道府県名のみではなく,番地までの記載を希望する場合は戸籍謄(抄)本。
参考:外務省 在外公館における証明-在留証明
これらの他に、1200円相当の手数料を現地通貨で支払うことになります。
署名証明書とは印鑑証明書の代わり
日本にいる場合は、不動産の登記手続きなどの際に印鑑証明書が必要になり、これはそれぞれの自治体で印鑑登録をすることによって発行してもらえる書類です。
しかし海外ではそれができないため、その印鑑証明書の代わりとなる署名証明書を取得しなければなりません。
署名証明書は貼り付け形式と単独形式の2つに分けることができるのですが、基本的に不動産の売却に利用されるのは前者の貼り付け形式のものになります。
署名証明書の取得方法
署名証明書の発給条件は以下の通りです。
- 日本国籍を有する方のみ申請ができます。(注)元日本人の方に対しましては,失効した日本国旅券や戸籍謄本(または戸籍抄本)(もしくは除籍謄本(または除籍抄本))をお持ち頂ければ遺産相続手続きや本邦にて所有する財産整理に係る手続きに際し,署名証明を発給できるケースもありますので,発給条件,必要書類等は証明を受けようとする在外公館に直接お問い合わせください。
- 領事の面前で署名(及び拇印)を行わなければならないので,申請する方ご本人が公館へ出向いて申請することが必要です。代理申請や郵便申請はできませんのでご注意ください。
参考:外務省 在外公館における証明-署名証明
署名証明書の取得に必要な書類は以下の通りです。
- 日本国籍を有していること及び本人確認ができる書類(有効な日本国旅券等)
- 形式1の綴り併せによる証明を希望される場合には,日本より送付されてきた署名(及び拇印)すべき書類
- (注)署名は領事の面前で行う必要がありますので,事前に署名をせずにお持ちください。なお,事前に署名(及び拇印)をされた文書をお持ちになった場合は,事前の署名(及び拇印)を抹消の上,領事の面前で改めて余白に署名(及び拇印)して頂くことになります。
参考:外務省 在外公館における証明-署名証明
これらの他に、1700円相当の手数料を現地通貨で支払うことになります。
代理人を使えばスムーズに売却できる
不動産の売却活動を行う際には、普段は海外にいたとしても、やはり重要な場面には一度帰国したほうが良いと考える方も多いのではないでしょうか。
実際に、最終の契約の際などには自分で確認したいと考える方も多いため、一度は帰国するという方も少なくありません。
しかし、中にはどうしても帰ることができないという方もいらっしゃるため、そういった方におすすめなのが代理人の利用です。
代理人は誰にするべき?
代理人とは、簡単に言ってしまうと、自分の代わりに不動産の売却活動を行いそれに必要な作業などもすべて行う人物になります。
一般的には、家族や親族に代理人をお願いする方も多いのですが、難しい話や用語などが出てくる可能性も高いため、やはり専門家に任せた方が安心だという方も少なくありません。
専門家とは弁護士や司法書士などが挙げられますが、後述する代理権限委任状を司法書士に作ってもらう方も多いため、どうせならばそのまま司法書士にすべてお願いしてしまった方が楽かもしれません。
なお当然ですが、専門家に仕事としてお願いする場合は報酬を支払う必要があります。
代理人を建てる際に必要な書類
先ほどは、海外にいる方が不動産を売却するために必要な在留証明書と署名証明書を紹介しましたが、代理人を利用する場合はこれに加えて代理権限委任状も必要になってきます。
ネット上で取得することも可能ですが、原本が必要になってくるため不備があった場合は再度国際郵送をしなければならなくなります。
司法書士に不動産を売却するための専用の代理権限委任状を作成してもらえば確実ですので、代理人も含めて司法書士にお願いしてしまうというのも方法の1つです。
海外在住でも税金はかかる
就労目的で海外に居住されている場合は、その国で税金を納めているはずですが、日本でも所得が発生した場合は日本で所得税を支払う必要があります。
場合によっては確定申告以前に源泉徴収が必要になることもあるため注意しましょう。
源泉徴収が必要なケース
全ての不動産売却が源泉徴収の対象になるというわけではなく、
- 売上代金が1億円以上になる場合
- 買い手が個人ではない場合
- 買い手または6親等以内の親族の居住用として購入されなかった場合
が対象となります。
その場合は、売却価格の10.21%を源泉徴収として納めることになります。
問題なのは、その源泉徴収を売却が完了した翌月10日までに税務署に納付しなければならないという点です。
恐らくご自身で源泉徴収を収めるというようなことをしたことがない方が多いはずですので、この辺りの手続きは税理士に任せたほうが無難です。
確定申告は必ずするべき
不動産売却による所得は課税の対象となるため、当然翌年の確定申告が必要になってきます。
しかし、上記の源泉徴収を納めている方の場合は、確定申告によってその一部が還付されることも少なくありません。
なお、源泉徴収を納めていない方は、その売却額に対する税金が徴収されることになるため、この時までその所得の一部を残しておくようにしましょう。
まとめ
例えば1年以内に帰国する予定があるのであれば、帰国してから売却活動をするというのも方法の1つですが、今後もしばらく日本に帰る予定がないという方は、海外にいながら不動産を売却することができます。
海外在住者が日本の不動産を売却する際に必要な書類は以下の通りです。
必要書類 | 主な役割 |
在留証明書 | 住民票の役割を果たす |
署名証明書 | 印鑑証明書の役割を果たす |
代理権限委任状 | 代理人をたてる場合に必要 |
なお、海外に出られる前に住民票を抜いていない場合は日本に住む日本人ということになるため、海外からの売却手続きができません。
海外からの不動産売却は可能ですが、やはり国内にいるときと比べると手続き等が面倒なため、ご自身の状況を見ながら売却活動をするのか決断しましょう。