解体工事の現場は一般的に養生シートによって覆われているため、その内部までを確認することはできません。

養生シートは解体作業によって発生する騒音や粉塵を最小限に抑えるために必要なシートになりますが、それだけでは粉塵を完全になくすのが難しいです。

粉塵の飛散をより防ぐためには、その養生シートに加えて解体作業中に水を撒く散水と呼ばれる工程が必要になってきます。

建材がきちんと湿っていれば、解体をすることでホコリが舞うことも少なくなるため、安心して工事を進めていくことができるのです。

逆に言えば、散水をしなければ粉塵が飛散して様々なトラブルを引き起こす可能性があるということです。

この記事では、そんな散水の重要性や散水しなかった場合の近隣の被害について解説しております。

散水の重要性

現代では、解体工事において散水をするのは、ほぼ当たり前のこととして認識されています。

しかし、一見解体工事には関係なさそうですが、なぜ散水をしなければならないのでしょうか。

散水の目的は粉塵の拡散を防止す

解体作業における散水の目的は、工事で発生する粉塵の拡散を防止するという1点になります。

どれだけ慎重に解体工事を行ったとしても、大きな建物を取り壊す際には必ず粉塵やホコリが大量に発生してしまいます。

しかし、その解体する対象が水できちんと湿っていれば、崩れ落ちる瞬間であっても湿気で粉塵が舞い散ることがありません。

もちろん水を撒くことで100%の粉塵を防げるとは言えませんが、散水をすることで粉塵の拡散が大幅に軽減されるため、今や解体工事ではなくてはならない存在となっているのです。

散水をしないとトラブルの発生の原因になる

散水をすることで作業中の粉塵やホコリを防ぐことができるということは、逆に散水をしなければ粉塵やホコリが大量に舞うということになります。

解体現場を養生シートで囲っているのであれば、粉塵の多くはその養生シート内に収まるかもしれませんが、当然そのシートの間から風に乗って遠くに飛ばされる粉塵も存在します。

粉塵の量にもよりますが、解体現場の近くの家ほど様々な被害を受けることになるため、それが原因でご近所トラブルに発展するケースも珍しくはありません。

解体工事でよくあるご近所トラブル3選とおすすめの解決方法

つまり、散水をすることによってご近所トラブルを未然に防ぐことができるとも言えます。

散水をしないことによって発生する粉塵による被害

散水をせずに解体工事を行った場合、大量の粉塵が発生することになります。

そのため、その粉塵によって大きなご近所トラブルが発生します。

粉塵による主な被害として

  • 洗濯物への粉塵の付着
  • 外壁が粉塵まみれになる
  • 車がホコリまみれになる
  • 建物内に大量の粉塵が入り込む

などが挙げられます。

洗濯物への粉塵の付着

粉塵被害で最もクレームを入れられやすいのが、洗濯物が粉塵で汚れてしまうというものです。

せっかくきれいにした洗濯物を取り込もうと思ったら、隣の解体工事の粉塵によって使い物にならないものになってしまうため、それが原因で大きなトラブルに発展する可能性があります。

例え養生シートをきちんと設置していたとしても、粉塵は100%防げるようなものではありません。

また、仮に事前に解体工事の情報を得ていたとしても、解体工事は毎日行われるため、長期的に日の当たる時間に洗濯物が干せないとなると、ちょっとしたことでも苦情を言いたくなるという気持ちもわかります。

外壁が粉塵まみれになる

もちろん雨が繰り返し降ることによって、ほとんどの粉塵は洗い流される可能性が高いです。

しかし、晴れの続く日に連日粉塵が飛んでくると、どんどんと外壁が汚れていきますし、その外壁がきれいな白色の場合は汚れがはっきりとわかるため、クレームを入れられやすくなります。

お隣さんの外壁が、粉塵が目立たない濃い色であれば問題ないというわけではありませんが、粉塵が建物に付着することに敏感な方もいらっしゃるため、事前に対策をしておく必要があります。

車がホコリまみれになる

例えば日中は仕事に出るために車を使うため、粉塵が発生する時間帯は家に車を駐車していないというご家庭も多いです。

しかし、普段は車を自宅に駐車しており、基本的には土日にしか運転しないというご家庭の場合は、連日行われる解体工事による粉塵の被害をダイレクトに受けることになります。

養生シートと散水によって粉塵はある程度防ぐことができますが、それでも完全になくすことはできないため車にシートをかけてもらうなどの対策をしてもらうことをおすすめいたします。

建物内に大量の粉塵が入り込む

窓を開けておくと気持ちの良い季節などに解体工事を行う場合は、お隣さんが解体工事中に窓を閉め忘れることによって、室内に大量の粉塵が入り込むようなケースもあります。

もちろん、これはそのお隣さんのうっかりミスということで話が終わることが多いのですが、それでもその粉塵は解体工事を行わなければ発生しないものですので、それが原因でトラブルに発展することもあるのです。

窓を閉め忘れて部屋中がホコリまみれになってしまうと、当然その後の処理も大変ですので、お隣さんとしても怒りのはけ口をこちらに持ってくるというわけです。

こちらに非がほとんどないと考える方もいらっしゃいますが、なんにしてもクレームが入ることでその後のご近所づきあいがぎくしゃくしてしまうのは気持ちが良くないため、それであれば初めから粉塵の発生を最小限に抑えるべきでしょう。

散水における法律

散水をすることで粉塵を減らすことができますし、ご近所トラブルを減少させることができます。

そのため基本的には解体工事において散水をするのは、いわば当たり前となっているのです。

しかし、実は法律には解体工事の際に散水をしなければならないというルールはありません。

法律上の散水に関する規定

散水は法律で決められている物ではありませんが、国土交通省の建築物解体工事共通仕様書には解体工事に関する様々な事柄が記載されており、その一部に散水に関する規定が記されています。

2節 騒音等の養生その他
2.2.1 騒音・粉じん等の対策
(a) 騒音・粉じん等の対策は,次の(1)から(3)により,適用は特記による。特記がなけ
れば,(1)による。
なお,シート類は防炎処理されたものとする。
(1) 防音パネルは,隙間なく取り付ける。
(2) 防音シートは,ジョイントの重ねと結束を十分に施す。
(3) 養生シート等は,隙間なく取り付ける。
(b) 防音パネル等を取り付ける足場等の設置範囲,高さ等は,特記による。足場等は,
防音パネル等の取付けに適した材料及び構造のものとし,適切な保守管理を行う。
(c) ブレーカー,穿孔機,破砕機,圧砕機等による粉じん発生部に常時散水を行う。
(d) 3.1.2[用語の定義](3)による「転倒解体」を行う場合は,転倒解体箇所及びその
周辺部に十分な散水を行う。

参考:建築物解体工事共通仕様書

また、工事のそれぞれの段階において

  • 騒音や振動
  • 粉塵
  • 臭気
  • 大気汚染
  • 水質汚濁

などの影響が生じないように周辺環境の保全に努めるようにということも記されています。

そのため、それぞれの 解体業者はこの仕様書に従って解体作業を行う必要があるのです。

なお、養生シートについては後程詳しく紹介させていただきます。

厚生労働省の求める粉塵基準

厚生労働省では、粉塵を以下の基準に抑制するための工夫をすべきと述べています。

  • 作業現場における作業者に対する粉塵許容濃度 ⇒ 5mg/立法メートル以下
  • 近隣における近隣住民に対する粉塵許容濃度 ⇒ 0.2mg/立法メートル以下

例えばこの基準を超えたからと言って法律違反ということにはならないのですが、作業員や近隣住民の健康被害のことを考えると、この許容濃度を上回るのは望ましくないと判断されているということです。

そして、その基準を守るためにはやはり工事中の散水が必要になってくるのです。

アスベスト含有建材の解体には散水が必要

解体工事をする際には、事前に対象となる建物にアスベストが含まれているかどうかを調べなければなりません。

そして、アスベストが含まれているということがわかったら、通常の解体工事よりもさらに慎重に作業を進めていく必要があります。

アスベストは建物の建材としては非常に優れた性質を持っていたため、ひと昔前に建てられた住宅には大量のアスベストが使われていたこともあります。

しかし、アスベストを吸引することで肺がん悪性中皮症などの重大な病気を引き起こすということがわかり、現代ではその使用は完全に禁止されています。

ただし、既に建てられてしまった建物には当然アスベストが含まれている可能性があるため、その建物の解体工事をする際には細心の注意を支払わなければならないのです。

アスベストの飛散を防止するためには様々な対策が求められますが、その対策の1つとして散水が挙げられます。

アスベストの除去ができる専門の解体業者に工事をお願いし、粉塵が出ないように十分に散水をして建材を湿らせてから解体を行わなければならないのです。

アスベストを含む可能性がある建物を解体する場合は、事前に必ずチェックしてもらうようにしましょう。

アスベストに関してはこちらの記事でも詳しく解説しております。

アスベストの基礎知識。アスベスト含む住宅を解体する際の注意点

養生も散水同様に重要なステップ

解体工事の現場は、必ずと言っていいほど養生シートに覆われています。

粉塵を防ぐためには散水も重要ですが、それよりもさらに重要になってくるのがこの養生シートなのです。

養生シートの役割

養生シートには様々な種類があり、その種類によって特徴などが変わってきますが、一般的な養生シートの役割は

  • 粉塵飛散防止
  • 騒音抑制

の2つになります。

要するに、養生シートは解体現場をできるだけ周りから隔離し、騒音や粉塵を閉じ込めておくという目的で使われます。

また、高い場所から解体されたものが崩れ落ちる際などには、それがそのまますんなりと下に落ちずに工事現場の周りに飛び散ってしまう可能性もあります。

例えばコンクリートが周りに飛び散ってしまった時に周辺に人が歩いていると、その方に危害を加えてしまうかもしれません。

そういった事故を防ぐためにも、養生シートは解体工事にはなくてはならないモノなのです。

養生シートで分かる良い解体業者の特徴とシートの種類や役割について

散水・養生と工事の質

厳密に言うと、養生シートも散水同様に法律で設置を義務付けられているわけではありません。

そのため、例えば周囲に人の住む家がなかったり人通りが全くないような場所での解体作業には、養生が使われないケースもあります。

しかし、一般的な住宅を解体する場合は周りも住宅で囲まれていることの方が多いため、普通の業者であれば散水同様に養生シートを利用することになります。

ただし、義務付けられていない以上、養生シートを利用しなくてもよいということですので、経費削減のために養生を行わないという業者も存在します。

同様に、散水をする際にも水を撒くためのスタッフが必要になってくるため、解体コストを下げるために散水用のスタッフを配置しないような業者もいるのです。

もちろんそれらは周辺の住民に大きな迷惑をかけることになるため、業者選びの段階から、きちんと養生シートを設置し散水も行ってくれるところを見つけるようにしましょう。

まとめ:散水で粉塵は最小限抑えられる!

散水は必ずしなければならないものではありませんが、解体工事現場に水を撒くことによって、大きな建物が崩れ落ちる際に発生しがちな粉塵を最小限に抑えることができます。

粉塵は騒音や振動と並んで、解体工事における代表的なご近所トラブルの1つになるため、近隣の住民とのトラブルを防ぐためにはやはり散水をしっかりと行ってもらう必要があります。

ほとんどの解体業者は作業中に散水を行いますが、中には工事費用を安くするために散水を行わないような業者も存在するため注意が必要です。

相見積もりのステップから散水の有無を確認することによって、結果的にご近所トラブルを未然に防ぐことができるため、複数の業者を比較して最も信頼できそうなところを選びましょう。