最近の建物にはアスベストが使われていることはありませんが、古い建物には当たり前のようにアスベストが利用されていました。

アスベストは人体に多大な被害を与える可能性のある物質になり、その建物を解体する際には細心の注意を払う必要があります。

実際に、現在空き家となっている建物の中にもアスベストを含有するものは少なくないため、特に古い年代に建てられた建築物を解体する際にはアスベストが含まれている可能性も考えなければなりません。

しかし、具体的にアスベストという物がどのような物質なのかわからないという方も多いですし、正しい除去方法もわからないという方が多いはずです。

もちろん実際にアスベストを除去するのは解体業者ということになるのですが、施主もアスベストに関するある程度の知識を付けておいたほうが良いでしょう。

今回は、そんなアスベストを含む住宅を解体する前に知っておきたいことをまとめています。

アスベストとは

アスベストという言葉を耳にしたことがないという方は、ほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。

しかし、具体的にアスベストがどのようなもので、どのような危険があるのか知らないという方は意外と多いようです。

アスベストについて

アスベストとは、蛇紋石や角閃石などが繊維状になった無機繊維状鉱物の総称のことになり、日本では石綿などと呼ばれることもあります。

耐久性や耐熱性をはじめとする様々な優れた性質を持っており、2000年前後までは建材として建物の色々な場所に利用されていました。

当時は格安で手にれることができたため、住宅用の建材だけでなく、電化製品や自動車用品など、様々な商品に利用されていたのです。

便利な鉱物として幅広く利用されていたアスベストですが、危険があるということが発覚して使用が禁止になりました。

アスベストの危険性について

アスベストを吸引することによって、肺がんや悪性中皮腫をはじめとする様々な重大な病気を引き起こすリスクがあります。

アスベスト自体は非常に小さなものですので、目で確認するのはなかなか難しいのですが、飛散しやすく吸引する可能性が高い物質です。

最初にアスベストを吸引してから様々な病気が発症する危険性があるのは、少なくとも15年以上の潜伏期間が必要になるため、当時は至る所にアスベストが利用されていたのです。

しかし、危険性があるということが発覚して以来、使用が禁止されるようになり、アスベストを利用した住宅は徐々に減少していきました。

アスベストが含まれる場所

それでは、実際にアスベストは住宅のどのような場所に利用されているのでしょうか。

目視しただけではアスベストかどうかがわかりませんが、利用されている可能性がある住宅を特定することは可能です。

年代別で見るアスベストの歴史

かつては住宅の様々な場所に利用されていたアスベストですが、その規制が徐々に強まってきました。

  • 1975年 アスベストの含有率が重量の5%以上の吹き付け作業の禁止
  • 1995年 アスベストの含有量が1%を超える吹き付け作業の禁止・青石綿、茶石綿の製造、使用等の全面禁止
  • 2004年 含有量が重量の1%以下の白石綿を除くすべてのアスベスト製品の製造、使用等の禁止
  • 2006年 アスベストの含有量が重量の0.1%以上の製品の製造、使用等の禁止

2006年以降に建てられた住宅であれば基本的にアスベストの心配は不要ですが、このように、古い住宅ほどアスベストが多く含まれる傾向にあります。

例えば1980年に建てられた住宅なのであれば、アスベストが含まれている可能性は十分にあるということになります。

アスベストが利用される場所

いくら古い住宅だからといっても、その住宅全てのパーツにアスベストが利用されているというわけではありません。

もちろんその住宅を建てた業者の方針や建設の時期などによっても異なりますが、住宅の中にもアスベストが利用されている可能性の高い場所というのが存在します。

屋根のアスベスト

住宅の中でも、スレート瓦にはセメントとアスベストが混ぜ合わされて使用されている可能性が高いです。

しかし、老朽化したからといってアスベストが飛散するかは定かではありません。

ただし、だからと言ってアスベスト処理の技術のない者がみだりに処分することはできません。

外壁のアスベスト

塗り壁にはアスベストが使われていないことが多いです。

しかし、サイディング外壁と呼ばれる外装材を貼って作られる外壁にはアスベストが含まれている可能性が高いです。

断熱材のアスベスト

 保湿性に優れているということもあり、ダクトや配管などにまかれた断熱材にはアスベストが含まれている可能性があります。

内装材のアスベスト

内装に使われるパーツの中で、パーライト板やケイ酸カルシウム板などにはアスベストが利用されている可能性があります。

吹き付け材のアスベスト

耐火性の高いアスベストは、耐火材として利用された吹き付け材に含まれている可能性が高いです。

アスベストの処理方法

それでは、アスベストが発見された場合はどのように処理をすればよいのでしょうか。

実際には解体業者が行う作業になりますが、知識として覚えておくと便利です。

基本的な処理

アスベストを含む廃棄物の処理は、埋め立て、溶融、もしくは無害処理のいずれかが行われることになります。

ただし、アスベストとして処理しても問題ないアスベスト廃棄物は、法律によって定められています。

具体的には、

  • アスベストが吹き付けられた建材
  • 建築材として使われているアスベスト
  • 保温材として利用されているアスベスト
  • アスベストが飛散するリスクのある建材

などになります。

また、アスベストを処理する際に利用した作業着、マスク、シートをはじめとするアスベストが付着している可能性があるものも含まれます。

レベルによって異なるアスベストの処理方法

解体作業の際、アスベストの発塵性に応じてレベルを3つに分け、それぞれのレベルに適した方法で解体をすることになります。

レベルごとに飛散への対策や工事の内容が若干異なるため簡単に紹介していきます。

発塵性が比較的低いレベル3

屋根材に石綿スレートを利用している場合や、住宅の天井や壁、床部分などにアスベストを含む成形板などを用いている場合などが当てはまります。

手作業で剥がすという処理方法が利用されることが多いため、比較的飛散しにくいと言えます。

また、発塵性の高い作業では作業員の保護具や隔離養生の設置などが必要になってきますが、レベル3の作業については簡易的な保護具を利用することもあります。

発塵性の高いレベル2

ボイラの配管や空調ダクトなどの保温材、柱や壁などの耐火被覆材、または断熱材などにアスベストが利用されている場合は、レベル2となります。

薬液によって飛散を封じ込めたり、解体時にその場所を密封したりすることによって、アスベストの飛散を防ぐことができます。

レベル1と比べると発塵性は低いと言えますが、それでもある程度の飛散は予想されるためきちんとした対策が必要になってきます。

発塵性が非常に高いレベル1

アスベスト処理の中で最も発塵性の高い作業が、アスベストを含有する吹き付け材の処理になります。

基本的にはセメントとアスベストを混ぜて作られている吹き付け材ですが、固まったものを取り壊す際にアスベスト濃度の高い粉末が発生するのです。

飛散量が著しく多くなる作業ですので、作業場所を隔離し高濃度粉塵に対応できるマスク、保護服などを使用するなどの対策が必要です。

アスベストと解体工事

それでは、最後に実際にアスベストを含む住宅を解体する際の流れを見ていきましょう。

最もアスベスト含有量の高いレベル1の解体工事を紹介していきます。

工事前の作業

アスベストを含む建物を取り壊す際には、工事前にその建物の分析調査を行う必要があります。

また、近隣の住民へ工事の旨を伝えたり、作業にあたっての届け出を提出しなければなりません。

届け出の提出について

発塵性の高い建物を解体する場合は、建築物解体等作業届、特定粉じん排出等作業実施届出書、工事計画届出を提出する必要があります。

建築物解体等作業届はその工事を開始するまでに、工事計画届出は作業の14日前までに労働基準監督署長に、特定粉じん排出等作業実施届出書は作業の14日前までに各都道府県の知事に提出することになります。

もちろん解体業者がすべて行ってくれるため、施主が何か特別な届け出をしなければならないということはありません。

事前準備

近隣の住民や周辺を通る人々のために、工事の概要を記載した看板を設置する必要があります。

立ち入り禁止や飲食または喫煙の禁止を掲示したり、有害性の掲示などを、周りの人々がわかりやすいように見やすい場所に設置しなければなりません。

アスベスト含有場所の隔離

アスベストが周りに飛散するのを防ぐために、特別な隔離養生を設置する必要があります。

一般の養生シートとは異なり破れにくくなっているため、安全に隔離、密閉して作業をすることが可能となります。

アスベスト除去作業

続いて、実際にアスベストを除去する工事について見ていきましょう。

養生できちんと隔離できていたとしても、安全第一に慎重に工事を進める必要があります。

飛散抑制剤について

工事をいきなり始めるのではなく、最初にアスベストを飛び散らせないようにする飛散抑制剤を散布することになります。

この薬剤を散布することによってアスベスト吸引のリスクが下がりますし、薬品自体も人体への被害がないため安全です。

アスベスト除去について

飛散抑制剤を散布したら、いよいよアスベスト除去作業へと移ります。

アスベストを含む建材を切断したり破砕することによって、除去作業を進めていきます。

作業を実際に行うスタッフは、アスベストから身を守るために防塵マスクを着用したり、使い捨て可能な保護服の着用などが必要になってきます。

袋詰めと使用機具の除去

除去したアスベストは、飛散しようように袋詰めして処分します。

また、除去作業が終わったら使用した保護服なども同様に処分するのが一般的です。

アスベストの除去に使用した機具にも有害物質がついている可能性が高いため、それらの物質が飛び散らないように丁寧に除去する必要があります。

除去後の作業について

アスベストを除去した後も、きちんとした工程で作業を続ける必要があります。

除去後の清掃

アスベストが除去できたら、作業員が利用していた更衣室や休憩室などをはじめとする仮設物を撤去することになります。

また、隔離養生も撤去する必要がありますが、その際にはアスベストの飛散がないように慎重に行う必要があります。

アスベストの処分

最終的に、解体工事で除去したアスベストを適正に処分するために処分場へ運搬します。

処分をする際にも有害物質が発生するため、間違っても不法投棄や野焼きなどの処分をしてはいけません

きちんとした処分をしてもらうためには、業者のマニフェストを確認するようにしましょう。

マニフェストとは?産業廃棄物管理票の見方と管理方法について

最後に

実際にご自身の持つ物件がアスベストを含んでいる場合は、きちんとした業者に解体作業を任せることになります。

もちろん施主がアスベスト除去に関する知識を付けたところで実際に工事をするわけではありませんが、知識を付けることによって業者のアスベスト除去方法などについて理解することが可能となります。

悪徳業者を利用してアスベストを不法投棄されるようなことがあっては大問題ですので、アスベストに関してある程度の知識を付けておいたほうが良いでしょう。

周囲の方々の迷惑にならないように、上手にアスベストを取り除いてくれる業者を見つけていきましょう。