解体工事は作業内容も大がかりで工事代金も高額であるため、トラブルも大きくなりがちです。
一口にトラブルといっても、当事者の組合せはさまざまで、「注文者と解体工事業者」、「注文者と近隣」、「解体工事業者と近隣」の間でトラブルが発生します。
そこで、この3つの対立関係ごとに解体工事でよく起こるトラブルの実例を解説します。
できればトラブルになる前に対策できれば1番いいですので、これから解体工事をしようと考えている方は少し参考にしてみてください。
注文者と解体工事業者の間で発生するトラブル
注文者と解体工事業者の間で発生するトラブルの筆頭格は、解体工事の作業内容と代金に関するものです。
ここでは2つの典型トラブルを挙げておきます。
解体工事の作業内容に関するトラブル
工事内容に関するトラブルとして、不用品処分の行き違いが挙げられます。
解体工事にあたり、建物内部にある動産を完全には運び出さず、ゴミの処分も含めて解体工事業者に任せる場合があります。
このとき、壺や絵画のように明らかな高価品があれば、本当に廃棄してよいか問合せがあるかもしれません。
ところが、子供が描いた絵のように(ご家族にとっては思い出の品であっても)第三者にはその価値が分からない物品の場合、確認なしで処分されてしまう可能性があります。
不用品の処分ごと任せる場合には、建物内部に必要なものや高価品が紛れていないか、必ず立ち会って確認しておくことをお勧めします。
また、外構の解体作業の際に「お気に入りの樹木だけは処分せずに別の場所に移植する」というオーダーも珍しくありません。
このときも、どの樹木を移植するのか、必ず立ち会って目印をつけるなどしておかないと、「玄関前の右から2番目の木」と口頭で指示しても、解体作業員が知らずに撤去してしまうことがあります。
解体工事代金に関するトラブル
解体工事に限らず、建設業界の見積もりでは「○○一式」といった書き方をするのが一般的です。
この「一式」という表現は解体業者にとっては便利ですが、注文者は工事代金の内訳がはっきり分かりません。
例えば、
「土間コンクリート解体工事一式 ○○万円」
という表示はどの作業を指すのか明確ですので問題はありません。
しかし、契約書に具体的な内訳がないまま
「解体工事一式 ○○万円」
と表示されている場合はどうでしょうか。
これでは、解体工事の中で
- どのような作業が行われるのか
- どの作業にいくら費用がかかるのか
まったく分かりません。
なので、作業を一部取りやめた場合にいくら減額すべきか、追加作業が発生した場合にいくら増額すべきか分からず、すべて解体工事業者の言い値になってしまいます。
どの作業が契約に含まれないのか分からない中で「これは別料金です」と請求されても納得できないはずです。
解体工事は高額な契約ですから、契約の段階で工事代金の内訳は必ず明らかにしておきましょう。
→解体工事の契約書にで見るべき6つのポイントと依頼の際の注意点
また、合わせて解体工事の目安の金額に関してはこちらの記事も参考にしてみてください。
→解体工事で掛かる費用の相場。抑えるべきポイントとからくりについて
注文者と近隣との間で生じるトラブル
解体工事によるトラブルの一番は何といっても騒音・振動です。
解体工事では、どうしても一定レベルの騒音や振動、ホコリの発生は避けられません。
騒音や振動、ホコリをゼロにすることはできないため、近隣の方々には、工事完了まで我慢してもらうほか方法はありません。
一般的な木造の戸建て住宅であれば、解体工事は数日で終わり、耐えがたいほどの騒音・振動は発生しないので、近隣にも理解を得やすいはずです。
そもそも、建物はいずれ取り壊すときが来るので、基本的にはお互いさまでしょう。
しかし、残念ながら中にはこうした道理が通じない隣人もいます。
騒音・振動に対するクレームがエスカレートした「過剰要求」を2つ挙げておきます。
解体工事の中断を求めてくる
解体工事の騒音・振動に耐えられないという理由で、解体工事の中断を求められるケースも少なくありません。
隣人に納得してもらうために、ひとまず要望どおり工事を中断した方がよいのではないかと考えがちですが、原則として工事は中断するべきではありません。
なぜなら、隣人からの要求で一旦、解体工事を中断すると、展開上、再開する時にもまた隣人の承諾が必要になるからです。
中には「裁判所に工事差止めを申し立てる」などと強硬に主張する人もいますが、裁判所が実際に工事中止を認めるほど、ひどい騒音・振動が発生している解体工事はほとんどないと考えて構いません。
また、裁判所に工事中止の仮処分を申し立てようと思っても、一般人には手続きが難しいので通常は弁護士に依頼しなければできません。
そうすると弁護士費用だけでも数十万円かかるので、実行に移すのは難しいでしょう。
仮に弁護士に依頼しても、申立書を準備している間に解体工事が終わってしまいます。
工事中止を強硬に求められても、裁判所の工事差し止めをちらつかされても、工事を中断する必要はないのです。
そうはいっても、まったく聞き耳を持たずに一蹴してしまっては、後々の近所付き合いに支障が出ます。
このような場合には、解体工事で建物を囲うシートを、一般的なメッシュシートから防音性能の高いシートに代えて、騒音に対して配慮している姿勢を示す、という方法もあります。
一筆入れるよう求めてくる
実は意外と多いのが「解体工事のせいでうちの建物に被害が出たら責任をとる」と一筆を入れて欲しい、と求められるパターンです。
この求めに対応するときには、2つのポイントを押さえておく必要があります。
まず一つ目は、
「解体工事の振動等によって隣家に損傷が生じた場合に責任を負うのは解体工事業者であって施主ではない」
ということです。
後ほどあらためて説明しますが、この大前提は間違えないように注意しましょう。
そして、二つ目は、もし文書を差し入れるのであれば、後々、人によって解釈が分かれないように明確な表現にしておくということです。
つまり、逆に言うと、文言が明確でしっかりしていれば一筆差し入れること自体は構わない、ということです。
中途半端な口約束をしてしまうと、どういう不具合が発生した場合に、どのような範囲で責任を負うのかが曖昧になるため、かえってリスクが高くなるともいえるのです。
中にはなんだかんだと理屈をつけて、金銭の支払いを要求をされる場合もありますが、慰謝料の支払いが必要になるほど、解体工事が隣家の生活に影響を及ぼすことは通常は考えられません。
もし、強硬に金銭の支払いを要求される場合には、弁護士などの専門家に対応策を相談しましょう。
トラブルを拡大させないための対策
近隣からのクレームに対し言いなりになる必要はありません。
しかし、これまでの付き合いやこれから先の関係のことを考えると、一蹴するわけにもいかない、というのが現実でしょう。
そこで、トラブルの発生を予防するためには、
- 解体工事が始まる前に挨拶をしておく
- 万一、解体工事中にクレームがあれば早めに事情説明に行く
この2つを心がけましょう。
解体工事前の近隣挨拶は解体工事業者がやってくれますが、施主本人からも一声かけておくことが望ましいです。
また、工事中のクレーム対応も、解体工事業者任せにするのではなく、なるべく施主本人も同席して直接対応した方が解決しやすいケースが多いのです。
その他の騒音・振動に関することはこちらの記事でも詳しく解説しているので参考にしてみください。
→解体工事の騒音・振動問題。苦情が来た際のおすすめの対処法について
解体工事業者と近隣のトラブル
住宅密集地などで解体工事を行う場合、解体作業の廃材が飛散するなどして隣家を損傷させる事故や、解体工事の振動によって近隣の建物に損傷が生じることがあります。
民法の規定により、解体工事業者が近隣や通行人に損害を与えたとしても、注文者である注文者は原則として責任を負わず、解体工事業者の責任となります。
なので、解体工事中に近隣の建物に損傷が生じた場合は、解体工事業者と近隣との間のトラブルになるのです。
解体工事の振動で建物に損傷が生じた場合
解体工事の振動によって、建物の外壁にヒビが入ったり、外構にクラックが入ることもあります。
しかし、もともと隣家が古い建物だった場合、果たして解体工事の影響なのか、もともと傷んでいたのか、外部から一見しても判別がつかないこともあります。
また、一般的な建物なら影響が出ない程度の振動だったのに、たまたま隣家が古い建物であったために影響が生じた場合まで、解体工事の責任にされるのも不合理です。
解体工事業者としては、解体工事との因果関係が分からないまま責任を負えないため、補修をめぐってトラブルが拡大することがあります。
しかし、解体工事と建物の損傷との関連性を正確に見極めるのは困難です。
仮に、建築の専門家に判断してもらい、「解体工事の影響ではない」という結果がでたとしても、隣家が納得しないことも考えられます。
家屋調査のすすめ
家屋調査とは、解体工事前の建物の状況を記録し、解体工事による影響なのかどうか、後から判別できるようにするための調査です。
家屋調査は、鉄筋コンクリート製の建物(ビルやマンション)などを解体する場合に行われるのが一般的で、一般的な木造住宅の解体の場合には家屋調査は行われないケースが大半です。
しかし、次のような場合には、
- 隣家が古い建物であるため、工事の影響なのかもともと傷んでいるのか区別がつかなくなるおそれがある
- 隣人がかなり神経質またはクレーマー気質である
念のため家屋調査の実施を検討してみてください。
まとめ
解体工事では、注文者、解体工事業者、そして近隣住民という3つの当事者が存在します。
本来は相互に理解、協力し合って解体工事が進んでいくべきですが、ひとたびボタンをかけ違えるとそれぞれが対立構造になります。
ただ
、解体工事でよく起こるトラブルはある程度限られていて、どれも予防策があります。
解体後に建替えて住み続ける場合には、その後の住み心地にも影響するので、無用のトラブルを抱えないよう注意を払いましょう。