外構工事で近隣からクレーム、といってもイメージが沸かないかもしれません。
でも実際は、ブロック塀や植栽の設置などは隣地との境界付近で作業が行われ、さらに外構のデザインは街並みとのバランスも考えなければならないため、実は、外構工事では近隣からのクレームも多いのです。
そこで、この記事では外構工事でよく発生する近隣クレームを取り上げ、クレームを予防するうえで必要な基本的知識とクレームの対策を解説します。
境界に関するクレーム
外構工事のうち
- ブロック塀
- フェンス
- 植込み
などは、通常、隣地との境界という意味で設置するため、自ずと隣地との境界付近での作業が必要となります。
しかし、土地は高価な財産であるため、土地の境界線がどこにあるか、という問題にはかなり神経質な方も多いのです。もしかすると、あなたの隣人もそうかもしれません。
そのため、境界付近で作業を行う場合には特に注意を払わなければなりません。
隣人との日頃の付き合いが良好であっても、境界問題を甘くて見ていると思わぬトラブルに巻き込まれるおそれがあります。
そこで、境界に関してよくある3つのクレームを取り上げます。
隣家と境界の認識が違う
自分の認識している土地の境界と、隣家が認識している土地の境界が違う場合があります。
土地の境界には、境界の目印として、
- 「境界標」として木杭やコンクリート杭を打ち込むケース
- 「境界標識」として塀や排水溝を設置するケース
があります。
境界付近に杭を打ち込んでいると、それが境界の目印だと認識するのが通常でしょう。
ところが、自分が境界の目印だと思い込んでいただけで、実は境界標ではなかったり、境界の目印になるようなもの自体まったく設置されていないもあります。
そのため、外構工事が始まってから、隣人から「境界の場所はそこではない」というクレームを受けることも少なくはないのです。
このようなクレームを予防するため、隣地の所有者と立ち会って双方で境界の位置を確認したうえで塀やフェンスの設置工事に着手する必要があります。
もともとあった境界標の位置が間違っている
以前から境界標や境界標識が設置されている場合であっても、必ずしもその位置が正しいとは限りません。
昔から目印として境界標がある場合でも、もともと正式に計測して設置しているかどうかは分かりません。
境界付近で作業をするときに、邪魔になるからと境界標の位置を勝手に動かしてしまい、本来の位置から変わってしまっているケースもあります。
お隣同士がずっと同じ土地に住み続けているうちは気付かないのですが、隣地の所有者が土地を売却した場合や相続が発生した場合などに問題が発覚する場合もあります。
例えば、隣地の所有者が自宅を売却するために計測し直したところ、「境界の位置が間違っている」「うちの敷地内にブロック塀がはみ出して設置されているので早急に撤去して欲しい」というクレームが入ることも珍しくないのです。
もちろん、簡単に撤去できるものであれば、すぐに撤去して円満に解決すればよいのですが、撤去するにも新たに作り直すにも高額な費用がかかるため、すぐには「撤去します」と即答しにくいでしょう。
そこで、「ひとまず現状は容認するので、将来、塀やフェンスを造り直す時期が来たときには正しい場所に造り直す」という内容の両家間で合意しておくという方法も多く使われています。
ただし、これらの合意は必ず書面で交わしておくことが重要です。
口頭で合意しても、本人が忘れてしまったり、子の世代に代替わりしたときに引き継がれず、結局、世代をまたいで境界問題をひきずることになるからです。
このようなトラブルを防止するためには、境界標や境界標識が設置されている場合でも、外構工事前に隣家と立ち会って確認しておくことをお勧めします。
正確な境界の位置などに不安がある場合には、測量や土地境界の専門家である土地家屋調査士などにに相談してみてもよいでしょう。
工事中に隣地に立ち入った
塀やフェンス、植え込みなどの工事は、まさに境界のギリギリでの作業です。建物の立地や周辺の作業状況によっては、どうしても隣地に立ち入らないと作業できない場合も出てきます。
そのため、民法では、こういう場合のために「隣地使用権」が認められています。
民法209条
「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる」
要するに、境界付近で建築作業や修繕作業をするときは、必要な範囲で隣地を使わせてもらえる、ということです。
しかし、これで安心ではありません。条文の末尾をよく見てください。
「請求することができる」と書かれています。
つまり、「境界付近で作業するので立ち入らせて下さい」と請求できるだけで、請求された隣地の所有者は、立ち入りを承諾しなければならない義務はないのです。
隣家との付き合いが良好であれば、わざわざ法律を持ち出すまでもなく、どうぞどうぞと、気持ちよく立ち入りを承諾してもらえるでしょう。
ところが、土地の境界について非常にシビアな隣人である場合や、隣家との付き合いが悪化している場合には、なかなか立入りを承諾してもらえないことおあるのです。
しかし、残念ながら法律は「請求することができる」と書いてあるだけなので、隣家に事情を説明し、理解を求めて立入りを承諾してもらうしかありません。
なお、隣家が嫌がらせ目的などで正当な理由がないのに立入りを認めてくれない場合には、裁判所に訴えて立ち入りを認める判決を得ることもできます。
制度上は可能とはいえ、将来的な付き合いを考えると、裁判所の判決で強制的に立入りを認めてもらうのは、現実的ではないかもしれません。
外構のデザインに関するクレーム
外構工事はあくまで自分の敷地内の工事なので、本来はどのようなデザイン、どのような形状にしようと自由であるはずです。
しかし、塀や植込みなどは街並みの一部を形成するため、自分の好きなようにできるとは限らない例外もあります。
例えば、地域の美観や街並みを維持するために、条例や協定などによって、外構のデザインに一定のルールを設けている場合。
このほかにも、ハウスメーカーや不動産会社が分譲地を開発した際に、外構のデザインについて一定の制約をつけることがあります。
このようなルールや規制がないか、自力で調べるのは難しいので、通常は外構工事業者が確認してくれます。
なお、条例や協定などでは、外構の高さ、形状などについて定めているものの、特に罰則がない場合があります。
しかし、罰則がないからといって、ルールを破ると近隣からクレームになることもあるので注意が必要です。
近隣の方々にしてみれば、「自分はルールに従って我慢したのに外構を好き勝手にデザインするなど許せない」という気持ちなのかもしれません。
そもそも、条例や協定は、地域の美観や統一され街町並み、といった公共的な目的があって定められているので、軽視するべきではありません。
また、将来的な近所付き合いを考えると、自分の好みを押しとおすのは避けた方がよいでしょう。
クレームの予防策・対応策
最後に、これまでに挙げたクレームの予防策とクレームが発生してしまった場合の対応策を解説します。
工事前に挨拶をしておく
特に境界付近の作業を予定している場合は、この点に注意しておく必要があります。
通常は、工事前には工事業者があいさつ状を配布してくれますが、あいさつ状には工事の日時や担当者などが書かれている程度です。
当然ですが、どのような外構デザインになるか等は書かれていません。
そのため、いざ工事が始まると
- ブロック塀が境界を越えている
- 周囲の街並みに合っていない
というクレームにつながるのです。
中には、自分の家のブロック塀だと思って取り壊したところ、実は隣家のブロック塀だったということもあります。
親の世代から同じ土地に住んでいると、昔から設置されているため、いつ誰が設置したのか分からないこともあるのです。
もちろん、近隣すべてに事細かに説明してまわる必要はありませんが、少なくとも境界が接している隣家には工事前に概略の説明と協力をお願いしておくとよいでしょう。
しっかり説明して理解してもらう
近隣からのクレームは気が重いのですが、工事のために隣地に立ち入る場合や騒音・振動などは、基本的に相手に事情を説明し、理解してもらうしかありません。
外構工事に関する近隣との調整は、工事業者がやってくれる場合が多いので、専門的な説明は工事業者に任せた方がよいですが、直接、施主が訪問した方が話が早いことも多いです。
「お互いさまだから、それくらい我慢して欲しい」と思う気持ちは分かりますが、将来の近所付き合いもあるので、そこはグッと押さえて、説明して理解してもらいましょう。
ただし、隣人があまりにも自分勝手な要求(たとえば金銭の支払いなど)や無理難題を主張する場合には、弁護士などの専門家に相談した方がよい場合もあります。
金銭で解決しない
外構工事によって、ある程度の迷惑が生じることは避けられませんが、基本的に「お互いさま」だと考えるべきでしょう。
ところが、昔から近隣との折り合いがよくない場合などは、少しくらいの迷惑でも目をつぶってもらえず、容赦なくクレームを浴びせられることがあります。
中には、「迷惑料」などという名目で金銭の支払いをされる場合もありますが、外構工事によって慰謝料の支払いが必要なほど隣家の生活に影響を及ぼすことは通常は考えられません。
もし、近隣から強硬に金銭の支払いを要求される場合には、弁護士などの専門家に対応策を相談することをお勧めします。
まとめ
外構工事は基本的には自分の敷地内で行われる工事ですが、隣地との境界で行われる作業も含まれます。
土地の境界線については、非常にナーバスになる方もあるので、安易に「だいたいこのあたり」という感覚で作業をすると、あとで大変な目に遭うおそれがあります。
また、クレームが発端で両家の関係が悪くなると、気まずい思いをしながら同じ地域で生活を続けなければなりません。
これは、お互いにとって不幸なことですので、外構工事ではクレームを予防し、万一、クレームが発生した場合には、しっかり事情を説明して理解を求めることが重要です。